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日曜日 “中華料理屋 安部”のティーシャツにハーフパンツ、ヒールのないパンプスを履き着いた場所は・・・ 「気持ち良いね~!!」 電車に約1時間乗った先にあった、自然が広がる大きな公園。 ブタネコ之助を抱っこしながら芝生を歩く私の手をしっかりと握ってくれる幸治君は、寝ている桜が入っているキャリーケースとお弁当箱やレジャーシートが入っているバッグを持ってくれている。 “デート”と幸治君は言っていたけれど、当たり前のように“家族全員”を連れてきてくれた。 「やっぱりタクシーとかレンタカーにしなくて正解でしたね。 今日高速道路も一般道も本当に混んでるらしい。」 「松戸先生の従妹の女の子がそう言ってたんだっけ?」 「そうですね。 遊びに行く場所を考えてたら、“日曜日は天気が良いからピクニックは?”って言われた時に。」 「この公園も松戸先生の従妹が教えてくれたの?」 「はい、この公園によくピクニックに来ていたらしいです。 ・・・・・・あ、一美さんとのデート先に他の女の子の意見を取り入れてすみません。」 「それは大丈夫だよ。 ただ、松戸先生の従妹といえば、もう1人の従妹である元気君の奥さんになった女の子のことを思い出してて。 その子、ビックリするくらい福富さんに見た目がソックリで、それにその従妹と同じように“普通”ではない力が・・・」 そこまで話した時、見えてしまった。 何気なく歩いてしまっていた場所の向こう側で、たった2人なのに他の誰よりも大はしゃぎをしている2人の大人が・・・。 こんなに広い公園のはずなのに、その2人の声と笑い声がやけに響いていて・・・。 「ねぇ、やめてよ・・・!!!」 「お前がもっと頑張れよ!!!」 「本当にガキなんだけど!!!」 「そうだよ、俺はガキなんだよ!!!」 そんな会話が幸治君と私の所まで聞こえてくる。 女の子が吹き出していくシャボン玉を全力で潰していく男の人は松戸先生で・・・ そして、そんな松戸先生に全力で怒っているのは・・・ 「ハハッ・・・福富だ。」 旧姓国光さんとソッッックリの見た目、でもどこをどう見ても福富さんだと分かる女の子が、全力で怒りながらも楽しそうにシャボン玉を吹き続けている。 福富さんの名前を嬉しそうに呼んだ幸治君の手が、私の手からスッ────...と離れてしまった。 それには凄く苦しくなりながら幸治君に視線を移すと、スマホを向こう側に向けた幸治君は凄く凄く楽しそうに動画を撮っている。 “プライベートの福富さんってあそこまで可愛いんだね。” その言葉は私の口から出てくることなく、私の中でモヤモヤとした気持ちになって留まった。 自然が広がるこの公園で、可愛らしいトップスにハーフパンツにスニーカー、会社とは違う可愛いヘアアレンジをしている福富さん。 元気いっぱいな若い女の子の姿をしている福富さんは、会社で見せる笑顔よりももっともっと自然で大きな大きな笑顔で笑っていて。 元々芸能人みたいな松戸先生と一緒にいても福富さんのその姿は見劣りしていなくて。 見劣りするどころか、曇1つない真っ青な空、まだ紅葉が始まっていない鮮やかな緑、その背景の中で虹色に輝くシャボン玉に囲まれ大きく大きく笑う福富さんは・・・ 「佐伯さんにだって“純”にだって負けてない・・・。」 それくらいの女の子だった。 福富さんも、それくらいの女の子で・・・。 「すみません、ちょっと行ってきます。」 福富さんの笑顔に釣られたように大きく笑っている幸治君がそう言って、私の足元にお弁当箱もレジャーシートも、桜のことまで置いて向こう側へと行ってしまった。 私達の所からどんどん離れていく幸治君の後ろ姿を眺めながら、無意識に片手で下腹部をおさえる。 「ごめんね・・・。」 この広い広い場所で、誰もが誰かと笑っているような場所で、私は何も笑えることなくこの場所に立ち竦んでいて。 松戸先生とだけではなく、可愛い福富さんとも楽しそうに話している幸治君の姿を眺めながらまた小さく謝る。 「“パパ”がいなくてごめんね・・・。」 小さな声でこの子に謝罪をした瞬間・・・ 向こう側にいる松戸先生がチラッと私のことを見た。 結構離れているし一瞬だったけれど何故かそれが分かった。 その一瞬だったけれど、あの怖いくらい鋭い目が不思議と光っているように見えたから、分かった。
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