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自分の言葉に驚いている私に幸治君は何でか意地悪な顔で私の背中に手を回し、ゆっくりと私の顔に顔を下ろしてきて。 久しぶりに幸治君が私の唇にキスをしてくれる・・・。 最後に幸治君とキスが出来る・・・。 昔よりも私にとっては綺麗な最後になる・・・。 そう思いながら目を完全に閉じた瞬間・・・ チュッ──────...とキスをされたのは私の唇ではなく、私の頬だった。 ビックリして目を見開いた私に幸治君はやっぱり凄く意地悪な顔で笑っている。 「唇にキスをして綺麗サッパリ終わりにはさせませんので。 俺が迎えに行くまで子ども達のことをお願いしますよ、“ママ”。」 驚くことに、“普通の幸治君”との最後はこんな最後になってしまった・・・。 もう本当に終わりなのに・・・。 私が幸治君と一緒になる未来はないのに・・・。 私が幸治君のことを“可哀想”にするはずなんてないのに・・・。 「意地悪・・・。」 「“中華料理屋 安部”の頃から俺は失礼で意地悪な男子高校生でしたよ?」 「そうだよ・・・そうだけど~・・・っっ」 泣きながら、怒りながら玄関の扉の取っ手に手を掛け幸治君に最後に吐き出した。 「じゃあ!!行ってくるね!!!!」 こんな“じゃあ、行ってくるね”なんて言ったことはないのに、最後の最後でこんな感じになってしまった。 なのに不思議と笑えてきてしまって。 「はい、俺に何か言うことがあれば連絡してください。」 “はい”だけではなくそんな言葉まで追加されていて、扉から踏み出そうとしていた足を思わず止めてしまった。 「家電じゃなくて俺のスマホに連絡してください。 本当は俺の番号を覚えてますよね?」 何も言えない私の背中に幸治君は続ける。 「“いけないコト”がしたいと思った時、いつでも良いので俺に連絡してください。 そしたらすぐに迎えに行きますから。」 “普通の幸治君”がくれたその言葉に、溢れだそうとする言葉を何度も何度も・・・何度も飲み込み・・・ 最後は何も言えないまま、逃げるようにこの家から出た。 幸治君の元から去った。 そして、泣きながら指先で頬を触る。 幸治君がキスをしてくれた場所を・・・。 その場所に触れていた指先をソッと唇に持ってきて、幸治君はしてくれなかった最後のキスをした。 でも、それだけではやっぱり綺麗サッパリ終われそうにないから・・・ 鞄に入っていた幸治君から貰ったタオルハンカチを取り出し、それを私の唇につけた。 昔の幸治君と同じように、キスをする。 でも・・・ でも、やっぱり・・・ 綺麗サッパリ終わりになんて出来そうになくて・・・。 「もう・・・っ本当に、私の扱いのプロ・・・・っっ」 最後は夕方に近付いている空に向かって嘆くしか出来なかった。
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