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胃液しか出てこない私の身体はそれでも吐き出そうと必死に胃を引っくり返してくる。 「・・・・っゥ・・・・・・っっ・・・・・・っっ」 “幸治君と初めて出会った日も吐き出したな” “幸治君と再会してからも吐き出しちゃった” 言葉だけではなく実際に汚い姿を見せた私のことを、幸治君はあんなにも好きでいてくれた。 苦しみながらもそんなことをぼんやりと考え、ゴロゴロと泣き続けながら私の身体に身体を擦り付ける桜のことを震える手で撫でた。 「全部ママのせいなの・・・。 ブタネコ之助も桜もお腹の子もみんな良い子だからね・・・。 パパだって凄く凄く良いパパだったんだよ・・・。」 お腹や手だけではなく身体まで震えてきて、脱力しながらおトイレの床にゆっくりと倒れた。 そして震える片手で下腹部に優しく触れる。 「パパの写真、1枚もないんだ・・・。」 目を閉じなくてもすぐに浮かんでくる幸治君の姿を思い浮かべながら小さくだけど笑った。 「ごめんね・・・。」 幸治君に謝ったのか子ども達に謝ったのか、何に対しての謝罪なのか自分でももう分からないけれど、今はこの言葉しか出てこない。 「こんなママでごめんね・・・。」 産まれてきてくれる子にいつか怒られてしまう未来がくるかもしれない。 私は只でさえ“普通”ではないのに、私よりも更に“普通”ではない環境の中でこの子を産むことになる。 それは分かっている。 私だって物心がついた頃から凄く凄く大変で・・・ 私だって幸治君みたいにきっと・・・きっと、“普通”ではないうちの家のことが凄く凄く嫌でもあって・・・。 だから分かっている。 こんな形で産まれてくるこの子はもっと大変な環境になるのだと、頭ではちゃんと分かっている。 でも・・・ でも、私はやっぱり・・・ 「ごめんね、ママは産みたい・・・。 パパとの赤ちゃんを産みたい・・・。」 ブタネコ之助のことも桜のことも抱き締めながら吐き出した。 「この子のことは誰にも殺させない・・・。」 小さくだけど強く強く吐き出してから、ゆっくりとだけど起き上がった。 「親にも加藤の家にも、他の分家のみんなにもまだ気付かれるわけにはいかないの・・・。 中絶手術が法律で禁止される妊娠週数までは絶対に・・・。」 ハンカチでもなく幸治君の手でもなく、自分の手で涙も鼻水も口までも拭った。 「ママも頑張るから・・・ごめんね・・・。 産まれてくる前から大変な思いをさせて本当にごめんね・・・。」 産まれる前から“可哀想な子”にしてしまったこの子に対して何度も謝る。 何度も何度も、何度だって謝るから・・・。 「お願いだから、無事に産まれてきて・・・。」 パパと一緒に暮らした家ではない家で、パパだけが“私達家族”からいなくなってしまった中で、怖いくらい静かな夜の中で吐き出した。 小さくだけど、心だけは一生懸命込めて吐き出した。
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