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────────────── ───────── ────── ──・・・ 「あ、すみませーん、起きました!」 見慣れない天井をバッグに幸治君の姿が目の前にあり、私の左腕はチューブに繋がれている。 「具合どう? あの後、松戸が“救急車を呼ぶほどじゃない”とか“救急車を呼ぶのにも税金が掛かってる”だとか“本当に救急車が必要な人の為にも救急車は呼ぶな”って怒りまくって。」 「松戸先生らしいね・・・。」 「佐伯さんが一美さんの荷物を持ってきてくれて、その時にここの病院のことを教えて貰いました。」 「佐伯さんか・・・。 朦朧としてたけど途中から意識はあったから、タクシーに乗った時に幸治君がここの病院名を出しててビックリした・・・。」 「一美さん。」 私の右手を握っていた幸治君の手に力が込められた。 幸治君の口から吐き出されるであろう言葉を予想する。 ある程度は予想出来ていた時、幸治君の向こう側から白衣姿の園江さんのお父様が現れた。 「赤ちゃんは・・・?」 幸治君の手をキュッ─────...と握りながら聞くと、園江さんのお父様である先生はこの前会った時と同じようにピクリとも顔を動かさずに声を出した。 「元気です。」 「よかった・・・。」 「全然良くありません。」 先生が無表情のままそう言って・・・ 「倒れるくらい食べられていないなら点滴を打つのでまた来るように。」 先生の怖い声には自然と頷くと、先生はチラッと幸治君のことを見た。 「点滴が終わったら帰って良いから。」 「はい、ありがとうございました!!」 幸治君が立ち上がりお礼を伝えると、先生は少しだけ悩んだ顔になってから幸治君に向かって口を開いた。 「娘から余計なことは言わないように言われてるけど、個人的にいいかな?」 「はい。」 「妊娠すると女性は自分の身体よりも子どものことを何よりも守ろうとする人が多い。」 「はい。」 「妊娠も出産も女性にしか出来ないことで、それは時には母体の命にも関わることになる。」 「はい。」 「僕がどんな言葉を掛けても妊娠した女性の多くは子どもを優先にする。 だから周りの人が・・・旦那さんがいるのなら旦那さんが、奥さんの身体のこともしっかりと守ってあげて欲しいと思う。」 先生が幸治君にそんなことを言ってしまって、幸治君が返事をする前に私は大きな声を上げた。 「違います。」 私の声に2人が私のことを見た。 「私のお腹の子の父親は幸治君では・・・この子では、ありません。」 そう口にした瞬間に泣きそうになったけれどしっかりとまた口を開いた。 「この子は何も関係がない子です。」 私が必死に吐き出した言葉に先生は険しい顔をしながら口を開こうとしてきた。 でも・・・ 先生の口から何かが出てくる前に幸治君の笑い声が響いた。 「“この子”って、俺もう大人なんだけど!!」 そこの部分を指摘してきた幸治君が先生にまたお辞儀をした。 「すみません、ありがとうございました!!」 幸治君の謝罪とお礼の言葉に、今度は何も言わずに先生は奥へと消えていった。
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