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幸治君は何でか私のことを“羽鳥さん”と呼び、その懐かしい響きには嬉しくなったけれど不思議にも思い、マンションの廊下を少しだけ移動した。
外が見える所まで歩いた後にさっきまで幸治君といた地面を4階から見下ろすと、そこにはもう幸治君はいなかった。
それには酷く苦しくなりスマホをもっと耳に押し付け、さっきまで幸治君といた地面を4階の廊下から見下ろし続ける。
そしたらまた幸治君の声がして・・・
「何かあったらいつでも連絡をして良いと、俺の18の誕生日にこの番号をプレゼントして貰ったので連絡をしました。」
「うん・・・そう言ったね・・・。」
それには少しだけ笑え、小さくだけど何度も頷いた。
「羽鳥さん、俺・・・」
言葉を切った幸治君が無言になった後、少しだけ震える声で吐き出してきた。
「分からないことがあって・・・。」
幸治君の深刻な声に“羽鳥さん”はまた小さく頷く。
「悩んでることもあって・・・。」
「うん。」
「羽鳥さんに聞いて欲しいことがあって・・・。」
「うん。」
「羽鳥さんに言いたいこともあって・・・。」
「うん。」
「あの誕生日の日から・・・もう随分経っちゃいましたけど・・・。
すみません・・・電話しちゃいました・・・。」
そう言われ、“羽鳥さん”は大きく頷いた。
“18歳の誕生日おめでとう、幸治君。
誕生日プレゼントといったらアレだけど、何かあったらいつでも連絡して?
私は週末しか来られないから、何か分からないことがあったり悩んでることがあったり・・・私に聞いて欲しいことでも私に言いたいことでも何でも大丈夫だから。”
“あの日”のことを思い出しながら口を開く。
「“私は幸治君よりも7歳もお姉さんだからどんな話でも大丈夫だから。”」
“あの日”と同じ言葉をこんなにも時間が経った今、また吐き出した。
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