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「ハァッ・・・・ハァッ・・・・・」 震える手でスマホを下ろし、震えている足に手をつき立ち上がろうとする。 「病院・・・。」 さっきまで赤ちゃんは元気だった。 でも、このお腹の痛みと“何か”が出た感覚・・・。 赤ちゃんに“何か”があったかもしれないと思うと怖くて・・・。 凄く凄く、凄く怖くて・・・・。 立ち上がりたくても足に力が入らない・・・。 全然立ち上がることが出来ない・・・。 「ハァッ・・・・・ハァッ・・・・・」 “苦しい” “苦しい・・・” 息をしているのにどんどん苦しくなっていく。 凄く凄く苦しくて・・・ 死んでしまうくらい苦しくて・・・ しゃがんでいた足が完全に廊下の床に貼り付いてしまった。 その、時・・・ ブワッ────────────....と、やけに強い風が・・・ でも不思議と温かい風がまた廊下を吹き抜けた。 「あれ?一美ちゃん? どうしたの?」 突然、私の真後ろから男の人の声がして・・・ ゆっくりと振り向くと、私の隣の部屋に住んでいる唯斗君だった。 「具合・・・悪くて・・・病院・・・」 「マジで?大丈夫?タクシー呼ぶ? ・・・あ、遅刻するって電話するから俺が車で送っていくよ。」 「ごめんね・・・ありがとう・・・。」 今日もお洒落な髪型と服装をしている唯斗君が、何処で買ったのかと思うような奇抜なスマホケースを煌めかせながら何処かに電話を掛け、それから私の腕を握った。 「立てそう?」 「・・・・・・うん。」 全然立てそうになかったけれど、唯斗君の身体に支えて貰いながら立ち上がろうとする。 でも、必死に立ち上がろうとしても立ち上がれなくて・・・ 全然立ち上がることが出来なくて・・・ 「一美ちゃん・・・?」 号泣し始めた私に唯斗君が心配そうな声を掛けてきた。 「私じゃ・・・っダメって言ってるのかも・・・っ」 エゴもワガママも嘘も“パパ”に押し付けた私のことを、”この子“は許してくれないのかもしれない。 あんなに良い“この子”のパパと別れ、他の男の人と結婚をし兄弟まで作るというエゴやワガママや嘘を”この子“にまで押し付けようとしている私のことを、許してくれないのかもしれない。 ”かもしれない“、ではない・・・。 そんなの簡単すぎるくらい簡単に分かる・・・。 ”この子“が生まれる前から幸治君は“この子”のことを何度も何度も優しく撫で続けていたから。 とても幸せそうな顔をして、私からのエゴもワガママも嘘も受け取りながら、何度も何度も撫で続けていた。 だから、分かる・・・。 簡単に想像が出来てしまう・・・。 「どうしよう・・・っ」 号泣しながら吐き出す。 「”この子“に可哀想なことをしちゃった・・・・・・っっ 生まれる前から可哀想な子にさせちゃった・・・っっ だから・・・だから、私じゃダメだって・・・私じゃ・・私じゃダメだって・・・そう言って・・・・・・・っっ」 おまたから“何か”が出ている感覚を感じ続けながら、私”も“このまま死んでしまいたくなる程の後悔をした。 「もう・・・っ無理・・・・・っっ“この子”がいないなら・・・っ1人じゃ、もぅ・・・・・っ立ち上がれない・・・・・っっ」   痛み続ける下腹部を両手で必死に押さえながら嘆いた・・・ その時・・・ 私の背中にソッと大きな手が添えられた。 その手はスルッと私の腰を滑り、お腹の方まで回ってきたかと思ったら・・・ グッ──────...と引き寄せられ・・・ トンッとしっかりした何かが私の身体を受け止めた瞬間・・・ 凄く好きな匂いがした。 凄く凄く安心する匂いがした。 妊娠中で鼻が敏感になっているから、それが凄く凄く分かった。 「すみません、俺の最愛の人でして。」 私の大好きな匂いと声がして、幸治君が来てくれたのだと・・・“この子”の”パパ”が迎えにきてくれたのだと、分かった。
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