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「何こいつ。 さっきエントランスで半べそかきながら電話してたくせに。」 「・・・・・この人マジでヤバいっすね。 分家の人達ってみんなこんな人なの?」 「うん、基本的には。」 凄くイライラしている顔を隠すことなく、それでも運転席に座ってくれた唯斗君の姿を眺める。 「みんな、”いけないコト“がしたいの。」 譲社長に憧れの気持ちを抱いている唯斗君に向かって吐き出した。 「みんな増田のトップに強い憧れを抱いていて・・・みんな本当は、増田のトップに立つ自分の姿を少しだけ妄想しちゃうの。 そんなことも妄想しちゃうくらい、みんな”いけないコト“をするのが大好きなの。」 うちのお父さんはそれを許さなかったけれど、他の分家の人達は当たり前のようにそんな“いけない妄想”をしてしまった。 「それは妄想するでしょ!! 元会長も現社長も、譲社長もマジで格好良いもん!! このスマホケースも譲社長が使ってるって、譲社長の幼なじみから聞いたからその人から買い取ったんだ!!」 「・・・いや、譲社長のスマホ俺見たけど、そんなギラギラのじゃなくて普通のでしたよ?」 「え・・・・!?マジ・・・・?」 車内には私の笑い声が響いた。 まだまだ怖い気持ちは沢山あるけれど、私は今こんなにも普通に笑えている。 私の手を握ってくれている幸治君の手をキュッ───────...と握り返す。 キュッ────────...とどころか、強く強く握り返した。 気が付いた時には下腹部の痛みはなくなっていることに気付きながら。 「大丈夫ですよ。」 幸治君のしっかりとした声がそう言って・・・ 「俺の”お父さん“が先に天国にいるので、向こうに行きそうになってもきっと大丈夫ですよ。」 嬉しそうな顔で笑った幸治君は車の窓から空を見上げた。 「さっきも久しぶりに言われた気がしたので。」 「何を言われたの?」 「”もっと出来るだろ”って・・・。 “もっと頑張れるだろ”って、2回も期待された気がしたから、俺は“羽鳥さん”に一美さんにお説教するように伝えられたし、一美さんのことを迎えにも行けた。」 「風が・・・吹いたよね・・・。」 「そうですね。」 小さく頷いた幸治君が私の手を強く強く、強く強く握ってきた。 車から見上げた空はやっぱり雲1つなくて。 綺麗な青空だった。 とても綺麗で・・・ 悲しくも懐かしくもなく、どこまでも綺麗な青空に見えた。
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