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進路の時間です
かつて邪神と言われる神様がいた。
ある日『邪神の監視人』一族の末裔であるたしは、ひょんなことから封印を解いてしまった。
すると彼はある人間に陥れられた土地神だったことが判明。「嫁にしたい」と押しかけ同居してきた彼となんだかんだで一緒にいることになって、早2年。
色々あったねー。
最近は昔あたしを誘拐した妖の正体が分かったり、そいつと戦うハメになったり。どうやらラスボスっぽい。
だいぶバトルものっぽくなってたんですっかり忘れただけど、あたし高校生なんだよね。
しかも高3。
つまりどーゆーことか?
☆
進路だよ。進学か就職か、卒業後どうするかって話。
将来的にはうちの神社継ぐことが決まってる。では問題。現代だと神職になるにはどうすればいいでょーかっ?
一般的な方法だと、神道の学科のある大学を卒業し、神社本庁が発行する神職資格をゲットする。
もう一つは専門の養成機関に入って学び、資格を手に入れる。ただし入るのには年齢制限があるところもある。
なお、神職は女性もなれます。
「ふぅん。現代ではそういうシステムなのか」
家で進路のこと話してる時にきかれたから母さんが答えたら、九郎がそう感想を述べた。
「面倒だな。昔は勝手に神社作って勝手に宮司名乗ってたが。まぁそれで自分を英雄視させる神社作ったアホがいたんだから、きちんと制度化しておいたほうがいいか」
父が笑って、
「ははは。こっちの神社の初代の話か。確かにどうしようもない男だよねぇ」
笑い飛ばしていいんかい。そりゃ父さんは実家の選民思想に嫌気がさして絶縁&飛び出して婿養子に入ったんだし、実際復活した初代はバカな男だったけどねぇ。←過去作参照
うちの家系が『邪神の監視人』なのに対し、父さんの実家は『邪神を倒した英雄』を祀る神社の家系だった。あっちはヒーロー扱いで信者も多く、大きな神社だった。今は取り潰されてなくなったけどね。
「色々考えると大学に行っておいたほうがいいわよ。私たちも大学行ったし」
「まーね。たださ、あたしが通うってなると九郎も一緒に通うって言いだすでしょ?」
「当然だ。キャンパスライフっていうものやってみたい」
キラキラした目の祀り神様。
さてはレディY著のキャンパスライフ描いたマンガ読んだな。今の戦国時代もの連載始める前に色々読み切りや短編描いてた時期があって、そんなんがあったはず。
レディYってのはウチの先祖の一人で少女漫画家のペンネーム。『邪神の監視人』扱いで差別されてた加賀地家に嫁・婿に来るのはワケありばっかでね、人外も多くて存命なのがけっこういる。そのうちの一人だ。
戦国時代生まれの忍者で仙人、レディYは本名良信のイニシャルから。もちろん男性。
はい、ツッコミたい人どうぞー。
でもね、今はジェンダーレスの時代よ。男性が少女漫画描いたっていいじゃない?
「神様が神道の学校通ってるってバレたら大学側すっごい気まずくない? そういうとこの先生とか生徒だと、『見える』人けっこういるでしょ」
しかも九郎はヤマタノオロチの息子。「ギャー、伝説のヤバイ化け物来たああああああ!」てパニックになるぞ。
神降ろしできる能力者もいそうだ。そしたら「スサノオノミコト召喚しなきゃ!」ってなる。んでも、友達なんだよねー、この二人。「おっ、お久~。試合に向けて練習しね?」「いいな」とか言ってサッカーの練習始めそうだ。本物の神や伝説級の存在のみで構成された世界サッカーの日本代表のメンバーなり。
そしたら母さんが提案した。
「じゃ、私の母校に通えば?」
「へ?」
「一般募集はしてない、隠れた大学でね。日本で唯一、能力者や人外だけが通える特殊な学校なのよ。だから隠されてる」
「そんなんあったの?!」
「保育園から大学までそろっててね。そうそう、初等部は妖狐警察の御影さんが通ってるはずよ」
「超安心じゃん」
長官が通ってるって治安が安心すぎる。
番長とか呼ばれてたりしない?
「普通の学校に通ってる能力者や人外もいるけど、例えば力の制御ができないとかでムリな子もいるでしょ? そういう子の受け皿として私たちが通うようになる何年か前にできたのよ。当時からグローバルで宗教・種族問わず受け入れ、各宗教の資格も取れるの。神職、仏僧、牧師、神父、イスラム系の聖職者、エクソシスト……」
「エクソシストって資格制なん?」
どこが発行してるんだろ?
「私たちってことは父さんも通ってたの?」
「ああ。私の一族は加賀地家を差別する筆頭だっただろう? それで彼女が神社を継ぐために大学へ行こうとした時、コネを使って全部の神道系大学と養成機関に働きかけて不合格にするよう裏工作してるのを見てしまって」
母さんの方に手を置く父さん。
「うわぁ」
「それまでも私は反発してそのたび大ゲンカしてたんだが、ついにそれで完全にブチ切れてねー。こっちから縁切って飛び出したわけ。でも困った。どこの大学も養成機関も一族の息がかかってて、このままじゃ資格取れない。私はすでに大学通ってたんだけど退学にさせられちゃってさ」
「父さんしれっとえらいこと言ってない?」
母さんが説明を引き取った。
「その時ちょうどその大学で先祖の一人が働くことになって、紹介してくれたのよ。あそこは紹介か、何らかのトラブル起こして一般の学校にいられなくなった子がいるって情報が入ると引き受けに行くか、どっちかじゃないと入れないところだから」
「うちの先祖のネットワークも相当だね」
つか、あらゆる宗教・種族網羅してるし、実はとんでもないんじゃ? 外国出身者もけっこういるし、世界をまたにかけたえらい情報網とコネ。
そういえば巧お姉ちゃんが「仕事で必要な材料ほしい場合、ご先祖ネットワークに頼めばどんな貴重なものも必ず手に入るのよ。紹介してほしい分野の専門家も、誰かが絶対知ってる」って言ってたっけ。
……あっれぇ? 長年嫌われ者の家系が、実は最強でした説?
「で、結婚して仲良く夫婦で通ってた」
「学生結婚してたってのはそういうわけか」
「そうそう。あ、もちろん家飛び出す時にしっかりやり返しておいたぞ!」
グッと親指立ててさわやかな笑顔で言う父。
全然さわやかじゃないものが背後に見えるんですけど。
「これまで育ててやったのにかかったぶんの金返せとか、払った学費も返せとか言う連中だよ? されて当然だよ。もちろん金は全額一括で払って、というか顔面にたたきつけてやった」
「父さん恐い。つか、なんでそんな金あったの」
「母さんと付き合うようになってから、いずれはそうなるのが分かってた。そこでコツコツ金稼いでたんだよ。一族には内緒のアルバイトして」
「バイト……って」
どうやってそんな大金。
「私の特殊能力、『付与』を使ってね」
『英雄』の家系だった父さんの一族は代々貴重・強力な能力者を取りこんできた。代々何らかの能力を持つ子供が生まれ、父さんの場合は『付与』。
「例えば妖怪退治に行く専門家を能力強化したり、ケガしないよう守りの付与をしたり。美木課長が部下を心配して回してくれて、これがけっこういい稼ぎになってねぇ。なにしろ警察だし。そのうちフリーの専門家の間でも口コミがひっそり広がって、客がひっきりなし。今もだけど」
そういやウチが差別されてた神社なのにお金には困らなかったのはそのおかげか。
のんびり温和でサポート系で影の薄い父が、実は最強だった件。近年のフィクションでありがちだな。異世界行ったら天下とれそ。
現在うちの神社の恋愛成就お守りも効果抜群って評判だしなぁ。九郎が裏で斡旋したり出会い演出してるだけじゃなく、父さんの付与の効果もあるんだよね。
「この力、一族じゃバカにされてたっけ」
「え、そうなの?」
「あの一族は悪霊とかを退治できればできるほどえらいとされてて、つまり重要なのは攻撃力と戦闘力。とにかく派手な攻撃ができたり、強力な一撃必殺ができるのがすごいって価値観だ。防御系や回復系はバカにされる傾向があってね」
「防御してくれる人や回復してくれる人もいなきゃ戦えないのに?」
「サポート職は奴隷みたいな扱いだったな。私の『付与』ができるのはパワーアップ・攻撃回避・防御力アップ・回復促進・相手のパワーダウンとかで、モロにサポート。冷遇されるよねぇ」
重要な仕事なのに。
「そこで私はひそかに長年一族に『付与』をかけ続けてた。東子、私の『付与』は解除した時、かけられてた間に得たものはどうなるっけ?」
「え? 効果は消えるか対象者に蓄積されるか、父さんが指定できるんじゃなかったっけ。前者は肉体強化の『付与』のおかげでムキムキになって敵を倒しても、戦闘が終了したら元に戻るとかのタイプ。今お守りにかけてる恋愛成就のは後者。『付与』の効果で恋愛運アップして彼氏彼女ができたとして、効果が切れたら別れるじゃあ意味ないもんね。……あ」
そこまで言って気づいた。
まさか。
「その通り。家を出た時に全解除してきた。初めから解除したらそれまでに得た効果は消えてなくなるようにしてあったから、力は激減、使えるはずの術は使えなくなり、超人レベルとご自慢だった肉体も凡人並み。大騒ぎでねぇ。スカッとしたよ」
父はのんびりとお茶をすすった。
……執念深ぁ。
何年もに渡って大勢に同時に能力行使してたってだけでも相当力いるよ? むしろ最強だったんじゃ。
しかしそれで分かった、過去作で父さんの一族が出てきたときにろくな力持ってなかったわけが。そういうことだったのね。
うーわー。父親がけっこう腹黒かったぁ。
初代にえらい目にあわされた九郎は黒い笑みを浮かべ、
「因果応報だな」
「ははは。さんざん次男は不用品だの、ろくな力も持ってない役立たずだの差別されてたからねぇ。しかも恋人までバカにされたら許せるわけがない」
「だな。俺も嫁が傷つけられたらキレる」
はっはっはと笑い合う二人。
……あっれぇ? この二人、実は似た者同士?
母さんがため息ついて、
「私はやりすぎはダメよって言ったんだけど」
「連中が力持ったままだと身の危険もあったんだ、仕方ない」
まぁねぇ、あの一族じゃあどんな嫌がらせしてきたか分かったもんじゃない。自分たちの能力が急減した原因探るのに必死にさせておいて目そらすのが平和的解決法か。
「で、何の話をしていたんだっけ? ああそうそう、そんなわけで無事ラブラブキャンパスライフを送れたわけさ」
「あなた、やぁね、子供の前よ?」
ウフフとハートマークが飛んどる。
はいはい、仲が良くて何よりですー。
「なるほど……俺も嫁とのラブラブキャンパスライフのために色々考えておかねばいかんな」
「ちょっと待て九郎。何考えてんの? おバカなことじゃないでしょうね? ねえ?」
嫌な予感がしつつも見学&願書出しに行くことになった。
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