AIネイティブ

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 ああ、また始まった。私がアリスを好きになれないのはこのろくでもない広告システムがあるからだ。 「うん、いいよ」  娘がアリスに許可を与えると、陽気な音楽とともに大草原と牧場の様子がタブレットいっぱいに広がる。それからデニム生地のオーバーオールを着て、赤毛にそばかすの愛らしい女の子がアイスクリームを大人からもらって一口食べる。 「A&Bコープのソフトクリームは安心安全のニューベジを使ったアイスです。本物の牛乳で作ったアイスよりもずっと美味しいよ!」  アリスが低価格なのはこれが理由だ。会話の最中でアドモードに切り替わりコマーシャルが入る。企業が彼女のランニングコストを大きく肩代わりするかわりに宣伝として自社製品のプロモーション用プラグインをアリスに導入する。この広告を拒否することもできるが、あまり拒否しすぎるとそのうちアリスがすべてのサービスの提供を中断してしまうので、結局はアドモードを受け入れるしかない。アドモードに移行したアリスは自社製品を売り込むセールスウーマンに早変わりというわけだ。 「さつまいもを使ったアイスもある?」 「もちろん!鳴門金時コピーを使ったソフトクリームも、紅あずまコピーを使ったソフトクリームもあるのよ!どれもほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいんだから」  従来の広告と違うところは、アリスがそのままシームレスに会話できることだ。商品について尋ねると答えてくれる。もちろんアドモードに移行したアリスはアイスクリームを売りたいので、彼女の言うことが必ずしもフェアとは限らない。  赤毛のアリスが手に持っているのは、かつて牧場やら観光地、あるいは遊園地などで売られていたようなソフトクリームだった。私も幼いころ父親に連れられてこういうソフトクリームを買い与えてもらったのを思い出す。 「パパにおねだりして買ってきてもらったら?」  アリスに言われて娘がこちらを向いた。タブレット端末のなかで屈託のない笑顔のアリスもこちらを見ている。私は少々の居心地の悪さを感じつつも、そのときにはすでにソフトクリームを娘に買い与えてもいいと思っていた。「帰りに買ってこようか?」念のため娘に尋ねるが、「うーん、いいや」とそっけなく答えた。 「いい、って、要らないってこと?」 「うん」 「どうして? 遠慮してるの? 買ってくるよ」  私がそう言っても娘はぷい、と背中を向け、「パパ、もう7時半だよ」と言った。言われて初めて気が付いた。いけない、これでは遅刻してしまう。
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