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夢水渡
夢水渡、15歳。
肌荒れや毛穴とは無縁のまろやかな白い肌。
びしばしに生え揃ったまつ毛。
アーモンド型の大きな瞳。
腰まで伸びた艶のある亜麻色の髪。
華奢な体躯などなどを兼ね備え、周囲からは千年に一人の美少女と呼ばれ、街を歩けばひっきりなしにナンパされスカウトされる男子高校生。
勝手に美少女コンテストにエントリーされうっかり優勝しかけても。
エスカレーター式故に幼稚舎からの同級生の8割が彼に初恋を捧げてしまっているなんて事実があったりしても。
彼は歴とした日本男児であった。
だからもしいつか結婚すれば誰かの『花婿』となるのは必然なのだが──。
「という訳で、婚約成立ね」
「ちょ、ま」
「よろしく頼む、渡」
その『花嫁』となるのがまさか超美男子な烏天狗だと一体誰が予想できただろうか?
※※
千年前、人間と妖怪は対立していた。
互いが互いを忌み嫌い争う。
そんななか声を上げたのが、天狗の一族と天宮という一族だった。
『互いのことを知らないから怖いのだ。だからまずは互いを知っていこう』と。
彼らとそれに賛同する者たちの働きにより、時の帝が妖怪と共存するための法律も制定した。
これにより人間と妖怪は共存の道を歩み、千年経った今もそれは続いている。
天宮家を筆頭に、率先して共存の道を守り続ける五つの一族。
天宮、狭霧、村雨、常磐津、そして夢水。
その子孫であり、現在の夢水家の当主・夢水渡は──。
「おい! 夢水が登校してきたぞ!」
「夢水渡! 好きだ!」
「いえ、俺の方が好きです!」
「いやいや、俺の方が!」
登校するやいなや男子生徒たちから受ける告白の嵐。
その群れをちぎっては投げちぎっては投げする光景は既に日常化しており、周囲の生徒は特に珍しがることもなく、ただ少しの好奇心やからかいの視線を向けて通り過ぎていく。
「くそっ、毎朝毎朝なんだってんだ!」
「まあまあ、落ち着きなって渡っち。血圧上がるよ」
「今日は何人だった? 記録更新したか?」
「東雲、朔、お前ら完全にスルーしやがって! 少しはダチを助けようって気持ちがねえのかよ!」
「ないねえ」
「ないっ!」
トマトジュースを飲みながらあっさり言い放ったのは東雲。吸血鬼。
元気よく明るく返事をしたのは生島朔。狼と人間の間の子で半妖。
彼らは渡の幼馴染みで、渡に初恋を捧げていない貴重な二人だ。
むしろ初恋はお互い同士。
中等部に上がった頃から付き合い始めた。
男同士で!? とか騒がれるのは当人たちより渡は心配してハラハラしていたのだが、むしろ当然の流れだとあっさり受け入れられたのには驚いた。
「渡っちさあ、適当に相手作っちゃえば? そうすれば毎朝の騒動も少しは収まるでしょ」
「す、好きでもないやつと付き合えるかよ! 相手にも失礼だし……」
「そういう律儀なとこがまた……いや、堂々巡りだしやめよ」
「シノ、ジュース一口くれ!」
「間接キス大歓迎ー。むしろ口、いっとく?」
「学校でやめろ!」
二人がいちゃついて女子から黄色い声が上がるのもまたいつも通りの光景で、渡は心底疲れ切ったとばかりに頭を抱えた。
「くっそ、せめて身長があればっ」
「149センチだもんね。女子にも軒並み抜かれちゃって」
「正確には149.8だ! 四捨五入すれば150!」
「俺181」
「俺は172」
『ガンバ』
「今すぐ縮め」
「俺らは、なあ?」
「種別的なのもあるよ、きっと。特に俺は実年齢がねえ」
「夢水渡! 決闘して勝ったら俺と付きあべしっ!」
「あ、瞬殺」
「本当、見かけによらず腕っ節は強いねえ」
幼い頃から痴漢、ナンパ、誘拐犯、変質者たちを沈めてきたその体術は伊達ではない。
そりゃあ渡だってお年頃だ。
恋の一つや二つ、興味がない訳ではない。
しかし渡には忘れられない相手がいるのだ。
幼い頃に一目惚れした、初恋の相手がーー。
(そういやあいつ、元気かなあ)
最近会えていないその存在に思いを馳せているその瞬間は、まさか思ってもいなかった。
この僅か数日前に初恋相手と再会を果たすだなんて。
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