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青い空に入道雲がわき起こっていた。
お小遣いと引き換えに村の案内を任されたわたしは、社へとつづく小道をお兄さんと一緒に進んでいた。
都会の喧騒とは無縁な小さな村。観光地などない。
「呪いの村の取材にきたんだよ」
ひたいに浮かんだ汗をぬぐい、お兄さんは愛想のいい笑みを浮かべた。フリーライター。お兄さんがくれた名刺には、そう書かれていた。
今回はオカルト雑誌の仕事で、『呪いの村』特集のためだとか。
なんでもこの村には呪いがあるらしく、一歩でも入ると、たちまち呪われてしまう。そんな噂がネット掲示板を騒がせている、と説明した。
「ま、僕はそんなの信じないけど」
お兄さんは鼻で笑うと、わたしのうしろにある社の写真を撮っていく。古びた社はあちこち傷み、ふとした瞬間に崩れ落ちそうである。お兄さんは社に近寄り、中を覗きこみ、溜息をつく。
「いい収穫はなさそうだな」
「ねえ、お兄さん。ミグミグさまって知ってる?」
そんなお兄さんに、わたしは餌を与えるように話しかける。
「なんだい? それは?」
興味深げな瞳が、わたしを見つめる。お兄さんはすばやくメモとペンをとりだす。
「この村の神さま。その姿を見た人は呪われるんだって」
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