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※執務室・ウィズ・モー その1
回りくどい方法で、それとなく、なんてやり方は苦手だったので、以前「どうして俺に辞令が出たんですか」と尋ねたことがある。
確かに危機管理課なんて大仰な名前の部署に配属されていたが、こんな平和な街で暴動なんか起こるはずもない。もっぱらハリケーンや竜巻用の備蓄を管理したり、土木局と連携して河川の氾濫箇所を予測したり、小学校に行って大雨の時は海を見に行かないようにしましょうと講義したり──の、裏方役。慣れないパソコンと向き合って資料を作ったり、電話番をしたりが主な仕事だった。秘書としての責務をこなすなら、自分より遙かに有能な人間がこの市役所には大勢いる。
一番最初に尋ねたエリオットは、あの凪いだように穏やかな笑みを浮かべ「期待しているから」と答えた。「技術なんて後から付いてくるしね。君は努力家だ。自分が思ってるより、遙かに素晴らしい資質を持ってる。その力で、ハリーを支えてくれるって信じてるよ」いかにもコンサルタントらしい、前向きで曖昧な表現だ。褒められて悪い気はしなかったが、望んだ答えではなかった。
ヴェラスコは少し躊躇して「それは僕も考えてた」とまず来る。それでも一生懸命考えてくれて、「君自身はどう思う?」なんて、分からないから尋ねているのに。結局、熟考の末に賢い弁護士先生が弾き出した答えは「君は彼に忠実だから」だった。
「出世の階段に足を掛けた今の時点で、本当に、心の底から忠実な人間を見つけて手元に置いておくのは、確かに重要だと思う。そうでなくても、政治の世界なんて奇々怪々なんだからさ」
だからこのまま頑張り続ければ、例え僕らの誰がクビになっても、君だけは安泰だと思うな。そう口にしたヴェラスコの印象的な瞳が笑っていなかったのは、少し怖かった。
ゴードンは単純明快、「お前のモノがデカそうだと思ったんじゃないか」とにべもない。
「分かってると思うが、お前は元々彼の警護も兼ねてるんだ。今までこの平和ボケした街でガードなんか付けてる市長はいなかったけど、これからどうなるかは分からない。お前、咄嗟の判断には強いんだから、いざとなったらそのデカい図体で盾になって、弾丸から市長を守れ」
それが一番納得できる、と頷きかけたら「いや、信じるなよ」と本気で呆れられた。
「心配しなくても、お前の人事だけはハリーが独断で決めたんだ。そもそもお前が自分で応募しなけりゃ、彼の目に止まることもなかった。望みが叶ったんだ、素直に喜んで、せいぜい頑張って仕事に励めよ」
正論も彼に言われると、少し釈然としない。
いや、やはりあの元ロビイストは間違っている。執務室に引っ張り込まれて早45分。つまり、休日出勤のご褒美だと、ハリーがこの大男のスラックスのベルトに手をかけてから35分。
最初の10分はいつも通りの押し問答、駄目ですよ、別に構わないだろうとお決まりのやり取り、業を煮やしその場へ跪いたのを慌てて立たせようとすれば、「じゃあ、あそこに座ってくれ」とデスクの向こうを指さされる。歴代の市長しか座ることを許されない、黒い革張りの椅子を視界に入れることもなく首を横に振れば、「君は律儀だなあ」と笑われて、それで何だか抵抗する気も失せてしまった。
勿論、女と寝たことはあるし、オーラル・セックスの経験だって。けれど、ハリーは今までモーが寝た誰よりも、口でするのが上手い。最初は普通に、下着から掴み出したペニスを両手で支え、大きさと重みを確かめる。
「君は本当に大きい、って、こんなこと、今までも散々言われてるだろうな。女性でも怖がるんじゃ?」
「ええ、まあ」
あまり他の同性の性器などまじまじ見つめたことはないが、多分そうなんだろうなとは思っていた。誇らしいとは考えていない。軍時代に投げかけられた羨望半分、賞賛半分の揶揄には、寧ろ気まずさを感じることの方が多かった。それにハリーの指摘通り、加減をしないと相手が痛がるので、モーにとってセックスとは、とにかく気遣い、気遣い、気遣いが全てだった。
そう正直に告げれば、ハリーはやわやわと食んでいた竿から唇を離し、目を細めてみせた。
「君のそういう美徳を、僕は損ないたくない」
恐らくそう言った。伏せられた睫に見とれ、ん。ん。と興奮した呻きに聞き惚れ、それから亀頭をぐりぐりと擦る手のひらの動きでぼんやりしていたから、うっかり聞きそびれてしまう。
まるでこれまでの苦労を労るように、大きく開いた口腔内に、緩く勃起したペニスを迎え入れる。既に先端へ滲んでいた先走りに加え、たっぷり溜め込まれていた唾液を全体にまぶされる。軽く口を窄めるだけで、ぐちゅ、と卑猥な音が鳴り響く。目眩がしそうだった。
舌先に力を込めて裏筋を擦り、頬の肉へ粘膜を触れさせ、しばらく遊ばれる。陰嚢を指先できゅ、と押されて、思わず歯を食い縛れば、ハリーは得意げに鼻を鳴らした。それからようやく先端だ。彼はめい一杯、喉の奥深くまで迎え入れることを恐れない。
あなたはこんな時でも勇敢なんですね。光の加減で明るく輝くダーク・ブロンドの癖毛を撫でてやりながら、モーはぼんやり考えていた。えづく様子を見せたらすぐさま引き抜く心積もりで見守っていたが、それはつまり、彼の痴態をまじまじと観察することにも繋がる。
ハリーは休むことなく、男を喜ばせる。飲み込みきれない幹の根本を片手で摩りながら、反対の腕は真上へと伸ばされ、腹から胸元へと繋がっていく濃い体毛をさりさりと撫でる。くすぐったくて少し身を揺らせば、高い鼻梁へ下腹が付きそうになるほど押し込んでしまった。咎められることはなく、寧ろハリーは汗染みの浮いたシャツに手指を絡ませるようにして、一層こちらへ引き寄せる。柔らかい喉の筋肉が緊張し、括れから末端に至る一際ずんぐりした場所を締め上げた。
一番狭い場所を出たり入ったり、上下する頭の動きが熱心さを増す。比例して、しゃがみ込むことで今にも破れそうなスラックスの尻が、うずうずと揺すられた。彼に奉仕させてばかりではいけない。汗ばむ胸元を撫で回していた腕を押し留め、反対の手で顎を掴む。開きっぱなしの口からは唾液が伝い、ぽたぽたと絨毯の上に滴り落ちる程だった。
ハンカチを取り出して拭いてやるべきなのかと逡巡する、モーのなけなしの理性を、ハリーは粉砕しにかかった。支える大きな手へ、従順な犬のように一層顔を預け、小首を傾げる。ブラインドで細切れにされた昼下がりの太陽を、潤んだ緑色の瞳は貪欲に吸い込み、きらめかせた。
「挿れたいか」
はい、と素直に頷いてから、すぐさま慌てて首を振る。
「いえ……次は俺があなたを悦くします」
膨らんだスラックスの前立てに視線が落とされていると気付き、ハリーは照れたように顔を背けた。
「やはり君は、優しいな」
とは言うものの、彼もモーの長大なものを少し怖がっていることは間違いなかった。ハリーは「怖いのがいいんだ」などと嘯くが、本来の役目とは違う目的に用いるのだから、慎重に行わなければならない。
「大丈夫、準備はしてある」
そう言いながらするするとスラックスや下着を床に脱ぎ落とし、ひょいとデスクに腰を下ろす。右足の踵を天板に乗せ、秘められた場所を露わにする。
確かに、たっぷりのローションを仕込まれたそこは濡れそぼっていた。薄赤く充血し、ふっくらと縁が膨らんでいる。本人が軽く指先で引っ張れば、くぷっと気泡が音を立て、粘液と共に溢れ出る。
「早く……全く、言わせるなよ」
掴まれたネクタイをぐいと引かれるまま、モーははしたなく開かれた両脚の間へ収まった。
いつもハリーは己とする時、正面から抱かれることを好んだ。何かの拍子でその話になったとき(全く不本意だった)エリオットが驚いていたのを思い出す。
「その、君と彼は体格差があるだろう。特に男性同士だと、そう言うときは後ろからやった方が、受け身側の負担が少ないから」
それを聞いて以来、これまで何度も体位について提案した。なのにハリーは頑なで、まるで抱っこをせがむ赤ん坊のように両腕を差し出す──実際、心境としては子供と変わらないのだろう。「こうして君に抱きしめられると安心する」と、安堵の吐息を交えて囁かれたら、とても断れたものではない。
接吻が深いものへ変わるのに時間はかからない。この愛撫はきっと、ハリー自身が、己の身へ降りかかる苦痛を紛らわす為に必要なのだ。男と熱心に舌を絡ませるなんて、去年までの自らなら想像するだけで嫌悪を催しただろうに。だがハリーのよく動く舌は相手をリードし、リードされ、次の動きを予想させないことで夢中にさせる。
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