18人が本棚に入れています
本棚に追加
カチャリ。
うちの玄関の鍵はどんなにゆっくり回してみても、シンと静まった部屋の中に音が響いてしまう。
「里香、随分遅かったじゃない」
姉の声に私は慌てて顔を上げた。
「6月で退職した人がいて、今凄く忙しいんだよ」
「ふーん」
姉は顔を近づけると、眉間に皺を寄せた。
「アルコールの匂いがするわね」
「仕事終わりに職場の仲間と居酒屋に寄って晩御飯を食べてきたの」
私は予め考えておいた嘘をつく。
姉には私が婚活中だということは内緒にしているのだ。
「最近多くない?」
姉は疑わしげに目を細めてみせた。
「だから忙しいんだって」
自分は好き放題やっている癖に、昔から姉は私の行動に口を出したがる。
「こんなに頻繁にお酒を飲んで帰ってくるなんて、随分楽しそうな会社ね?」
「そう思うんなら、お姉ちゃんもそろそろ仕事始めれば?」
私の言葉に、分が悪くなりそうだと思ったのか、姉はすごすごと自分の部屋に戻っていく。
彼女は1年前に離婚して実家に戻ってきている。
仕事もせず、ろくに家事もせず、やることといったら、私の行動を管理したがることぐらい。
姉が結婚してやっと自由な生活ができると思っていたら、また子供の頃の窮屈な生活に逆戻りだ。
私は自分の部屋に戻ると、婚活アプリを開いた。
こんな家、早く出て行かなくちゃ。
最初のコメントを投稿しよう!