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うーん、どうしようかな……。
婚活アプリで、元永さん以外にもメッセージでやり取りしていた人から、会わないか、と連絡がきたのだ。
職場の同僚からも、今週末合コンに誘われている。
元永さんは今まで会った人達よりも好感度は高いけれど、「好き」なのか、と問われると、まだ良くわからない。
まあ、合コンは良いとして、アプリの方はもう少し様子見で……。
「里香、そんなのやってるの?」
姉の厳しい声に、私は慌てて振り返った。
「婚活アプリなんて、騙されるに決まってる! 男は信用しちゃダメだって私が言ったでしょ?」
しまった……。
「お風呂に入ってくる」という姉の言葉に、ついリビングでアプリを開いてしまっていたのだ。
今まで彼女には見つからないよう注意してきたのに……。
「あなたはお姉ちゃんの言う事を聞いていれば良いの!」
姉はそう言うと、私から素早くスマホを奪い取る。
「ちょ……何するの? 返してよ!」
私が慌てて手を伸ばすと、姉はさっと避ける。
「こんなアプリ、お姉ちゃんが退会させてあげる。あなたの使いそうな暗証番号ぐらい、大体わかるんだから」
そう言って人のスマホを開こうとする姉に、私の中で何かが弾け飛んだ気がした。
「いい加減にしてよ!」
私はそう言うと姉に飛びかかっていった。
ガターンと大きな音を立てて、姉もろともリビングの床に倒れ込む。
姉の手から外れてスマホがフローリングの床に転がっていくけれど、そんな物はもうどうでも良かった。
「いつもいつもいつも。何で私のこと縛り付けるのよ!」
「私は里香のこと考えて……」
「私はそんなこと頼んでない! 考えなしに行動していつも失敗するのはお姉ちゃんじゃん」
「酷い!」
「私はお姉ちゃんじゃない! お姉ちゃんは逃げてるだけでしょ。浮気されて捨てられたのはお姉ちゃんだよ。私じゃない!」
艶のない唇が僅かに開けられると、声にならない言葉が発せられる。
言ってはいけないことだとわかっていた。
わかっていたけれど、私には止められなかったのだ。
「失敗したっていう事実を私に押し付けて、結局、学習しないから、また同じような過ちを繰り返す。ちゃんと自分の間違いに向き合いなよ!」
そう言って立ち上がると、リビングの入り口で棒立ちになっている母と目が合った。
ここにも自分の間違いに向き合えない人間が一人いた。
甘やかすだけ甘やかして、自分の行動に向き合えない大人になってしまった自分の娘。
その娘と向き合えない母も、また、逃げているのだ。
私はダンダンと大きな音を立てて階段を上っていく。
こんな家、早く出て行かなくちゃ。
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