最終章~証言~

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壱能は振り向くと 笠間津を自分達が座っている ソファーの後ろに隠れさせた。 笠間津と桜井に御札を渡し 胸ポケットに入れさせ 壱能は笑顔で始めようか、と言った。 静かに待つ笠間津と桜井。 壱能はものすごく小さな声で 誰かの名前を呼んでいた。 それは隣に座った桜井にすら 聞き取れない程の とてつもなく小さな声だった。 徐々に 正面のソファーに人影が現れた。 ハッキリ見えたその人影は ベッドの上に寝ていた幸子だった。 「初めまして。 名前と生年月日は言えますか?」 壱能の問いに ゆっくり答える幸子の姿と声は 桜井にも通じた。 笠間津もパソコンで姿を確認し イヤホンで声を聞いていた。 幸子の事情聴取が終わると 壱能は優しい笑顔でありがとうと言い 両手を合わせ、また聞き取れない程の 小さな声で何かを呟き始めた。 すると幸子はキラキラと輝き始め 涙を流し、ありがとうと言って消えた。 これが壱能の特殊能力だった。 この能力で色々な事件を解決してきた。 幸子、玲奈、ゆみ、触家の順に 女性陣の事情聴取が終わり 男の事情聴取が始まった。 男は何も話さず 終始、床を見ていた。 真下がちょうど 2人の遺体があった部屋だった。 「彼女が本命なんだね。 ・・・気になる?」 男は聞いていない。 しかし壱能は諦めない。 「・・・楽しかった?皆と遊んで。」 これもスルー。 「犯して満足した?」 まだ黙り続ける。 「彼女どう?可愛くない?」 桜井を見せようとしたが 見向きもしない。 その後、何を聞いても反応しない男に 壱能は1枚の写真を持って 近付いていった。 男が座っているソファーに 御札をさりげなく貼り 写真を見せた。 「・・・この人・・・知ってるよね?」 男はみるみる表情が変わり 怒りを露にした。 写真の人物は柏聖だった。 「そう。 君が唯一、殺せなかった男だよ。」 「死ね・・・死ね・・・死ね・・・」 そう言って壱能に掴み掛かろうとしたが 男はソファーから離れられなかった。 「君は山瀬ヒカルさんを 守ったつもりかな?」 壱能が言うと、 「ヒカル・・・ヒカル・・・」 と言ってまた床を見つめ始めた。 壱能が山瀬の写真を見せると 男は笑顔を見せた。 「彼女は死んだよ。赤ん坊と一緒に。」 男は壱能の言葉を聞いて涙を流した。 「俺は殺してない・・・ 愛しただけだ・・・ ヒカルを愛してるんだ!! ヒカルの所に行かせてください・・・ ・・・ヒカル・・・ヒカル・・・」 少しして壱能が口を開いた。 「君は間違えたんだ。愛し方を。 彼女達は君を許さないだろう。 勿論、山瀬ヒカルさんも。 山瀬さんに会える可能性なら 1つだけあるよ。聞きたい?」 男は何度も頷いた。 「君の記憶の全てを聞かせて。」 男はしばらく黙った後、 ゆっくり話始めた。 重たい内容に桜井は 気分を悪くし、それに気付いた壱能は 男を無理矢理、成仏させた。
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