愛な君がここにいる

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俺がアイツは実はAIなんじゃないかと疑い始めたきっかけは、すごく些細なことだった。 午後の最初の授業は満腹なせいかとてつもない眠気に襲われる。特に今日は皆んな眠いらしくほとんどが船を漕ぐか頭を伏せて爆睡している。自分ももれなく夢と授業の行き来をしながらぼうっとしていると キーンコーンカーンコーン 退屈な授業の終わりを告げるチャイムが学校に鳴り響いた。号令がかかって一気に淀んだ空気が動き出す。 まじ、眠かったわ〜 そんな声が所々から聞こえた。 「吉岡っ!」 いきなり後ろから体重をかけられて振り返ると黒川と北見と橘が居た。こいつらは揃いも揃って必ず休み時間に俺のところに来る。理由は簡単で、俺の席は教室の中で一番エアコンの風が吹き付けるからだ。 「ごくらくぅ〜」 そう言いながらイエスみたいなポーズをしている黒川とそれを真似ようといそいそ風の当たる場所を横取る橘、そしてスマホをいじる北見。 北見の画面の中ではAIがこの後の天気を詳細に表示していた。 「げっ、帰る時は42℃だって」 北見が心底嫌そうに俺に言う。 最悪だな、と返事をしながらスマホを出してとあるゲームを立ち上げた。 大手ゲーム会社が出した最新ゲーム 内容はAIに分析されるデータを自分で選び何を学習させるかでゲームの中の世界が作られていくというものだ。 正解や攻略法がないRPGという売りでとんでもない人気を誇っている。 俺はこのゲームに最近苦戦していた。 「うわ、まただよ」 頭を抱える俺に北見がどんまい、と笑いながら声をかけてくる。 AIは自分から何かを作り出すことが出来ない。 大量のデータを読み込むことで、ある意味模造品のオリジナルを生み出すのだがそれがすごく難しい。どうしても俺だけのワールド、というものが出来ないのだ。試行錯誤しながら色んなデータを読み込ませすぎると、AIは今度は古いデータを忘れてしまう。そうやって毎日堂々巡りにゲームに苦戦している訳だった。 諦めて1度リセットしようかな そんな投げやりな思考になって机に寝そべった時、視線の先に祭という名前の男子と祭を囲む男子が見えた。 「だから適当でいいんだって」 囲む男子の中から笑って言う声が聞こえる。 「いや、俺絵心ないんだよ」 祭が困った様子で逃れようとしているのは学級日誌の今日のページらしい。 絵心ってどういうことだ そうしばらく考えて思い当たった。 このクラスでは担任の発案で日誌の自由欄に担当者が何かイラスト描くことになっていた。 小学生でもあるまい、そんな風に面倒くさがっているやつも結構いた。 お題がない事でその面倒くささがより一層増す。 祭はどうやら今日の日誌担当者の友達にその絵を代わりに描くことを頼まれているようだった。 「頼むよ祭、いつも絵上手いじゃん」 「いやあれはたまたまっていうかさ」 困ったように眉を下げる祭に友達はとうとう縋るように頭を下げて頼み始めた。祭は笑いながらも迷うように瞳を動かし、少し間を置いてから 「分かったよ、分かった」 そう言った。学級日誌をその友達から受け取り、次の授業に備えて友達が全員戻ると、祭は学級日誌を抱えたまま誰にもバレないくらいのため息をついた。 北見と黒川と橘がいつの間にか席に戻ってからもなぜだか俺は祭から目が離せなくてそのままずっと祭を見ていた。 そしてため息をついた祭を見て、なんとなく思ったのだ。 まるでAIみたいだな 新しい世界を作り出すことが出来なくて困り果てている俺のゲーム中のAIに祭が重なって見えた。そんな非現実的な感想に思わず笑ってしまう。しかし何度も言葉を反芻するうちに妙にすとん、とその感想に納得してしまった。 祭の狼狽えぶり、困ったようなため息。 友達から頼まれたイラストなんて何でも適当に描いておけばいいのに、あんなに嫌がるのは少し不自然な気がした。 こんなただの妄想としか思えない出来事から俺は祭はAI何じゃないかと疑い始めた。
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