愛な君がここにいる

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それから俺はことある事に祭が気になるようになった。祭がAIかもしれないなんて馬鹿げた考えは直ぐに消えるだろうなと自分でも思っていたが、むしろ疑念は深まる一方だった。 一度AIかも知れないと思うと、今や世界中に完備されているAIを使った数々のシステムと祭どこか類似しているように思えてくるのだ。 「はぁ、何考えてんだ俺」 思わず小さく独り言が漏れ出たのは、最近クラスの文化祭の材料調達係に祭と俺が選び出されてしまったせいで、この考えがより一層頭を巡ってしまうからだった。 「吉岡ー」 「ん、ちょっと待ってて」 教室の扉の外から祭が顔を出して俺を呼んだ。これから学校の廃棄コーナーから大量のダンボールを運び出す予定だった。 急いで祭の元に行き、一緒に並んで歩き始める。 隣を歩く祭のシンプルイズベストという言葉が似合う整った顔をちらりと見てふと思ったことを言う。 「祭って、苗字で呼ばれないよな」 「あぁ、うん。本当に呼ばれない」 祭はちらりと俺の方を見た。 「たぶん、祭って名前が珍しいからなんだろうね。この名前だと流石に苗字は勝てない」 「苗字もよりによって最弱みたいな苗字だしな」 祭の苗字は佐藤といった。 「そう、まさに最弱の苗字だよ」 祭もそう思うらしく細かく笑いながら 「友達からはわっしょいって呼ばれたりもするんだよーすごいでしょー」 そう投げるように大声で言いながらリズム良く階段を駆け下りた。 祭の足音のリズムが階段中に響いて無機質な冷たい階段の壁をカラフルに彩る。 「祭、どこ行くの!」 「えっ?」 祭はダンボール廃棄場所の最短ルートとはかけ離れた通路を進もうとする。思わず手を掴んで止めると、祭はきょとんとした顔をした。 「そっちだと遠回りだろ」 「いやでもこっちから行くもんじゃないの?」 もう曲がったらすぐ着くじゃん、 そう言うとしばらく経って祭は何か思い当たったようにあっと声をあげた。 「ごめんごめん、ここの通路が職員会議で通っちゃいけない時あったじゃん?その時遠回りする道から行ったから、つい」 照れた顔をして頭を搔く祭は自分の間違いになんの違和感も抱いていないようだった。 何してんだよ、そう笑いながら祭の肩を叩いて正しい通路の方へ2人で進む。 祭の隣を歩きながら、祭とは接していない左腕を静かに右手で握った。 祭はAIかもしれない 再び頭の中を旋回しだしたそんな考えを振り切るように右手を強く握り直した。 祭と俺で調達したダンボールを使ったお化け屋敷は無事、文化祭で大成功を遂げた。 ちなみに黒川は文化祭のステージでバンドのボーカルとして熱唱し、一目惚れされたらしい後輩の女子を見事彼女にゲットした。橘と北見は何も変わっていなくて、俺も含めた3人で浮かれている黒川に嫉妬がてら釘を刺す毎日だ。 そして祭は。 祭も何も変わっていなかった。相変わらず人に優しくてよく困ってて、だけど笑いながらなんでも丁寧に請け負ってくれるからクラスの縁の下の力持ち的ポジションにいた。 俺はそしてこの間に祭という人間を知って、 祭はたぶんAIだ。 そんな考えに至っていた。祭と距離が近くなればなるほど色んな祭との出来事が、その考えを確かなものにしていった。その考えに至ってからかなりの回数混乱したり一度冷静になろうとしたりしたけど結局行き着いた答えは だからといって何も変わらない。 というものだった。 祭がどこまでも普及したAIの進化系、 人型 の最高傑作だとしても、 俺の前に居る祭はただの「佐藤祭」で、それ以上でもそれ以下でもない。 だから俺だってどこにも混乱する必要なんかないんだ。 そんな結論になった。 なのに。それなのに。 冬。雪がちらつき息も凍てつくような冬にそれは起こった。 2年8組佐藤祭は人型AI 誰が漏らしたのか、なんでそいつはその情報を知ったのか、何も分からない。ただある日突然、どこかの誰かが匿名で、全学年で形成されている学校コミュニティーSNSにそれを流した。 当たり前だが誰も初めは真に受けなかった。 その情報が広まった次の日、祭は普通に学校に来たし、周りはそんな変な噂の流れた祭を茶化した。 「お前なんでこんな変な噂流れんだよ〜」 「まさか本当にAIだったりして!?」 祭はいつも通り眉を下げながら 俺そんな機械っぽいのかな? そう困った顔をしてみせて周りから笑われていた。 でもその次の日にニュースでとあることが大々的に報じられた。それは最近注目を浴びている世界的なAI技術対策グループの新しい論文で、その中に 「人型AIが秘密裏に運用され始める 危険への警戒」 というものがあった。 その次の日は誰も祭を茶化さなくなった。 祭の変な噂が笑い飛ばされることがなく、微かな祭への警戒感がクラスに漂っているようだった。祭は学校を休んだりはしなかったが俯くことが多くなった。 少しずつ少しずつ、悪意ある疎外ではなく恐怖心からの純粋な疎外を誰もがするようになった。 俺、北見、橘、黒川、そして祭とかなり仲がいいらしい男子1人は祭といつも通り会話していたが、そんなもので祭を疎むクラス全体の風潮が収まることは無かった。 純粋な恐怖心からの疎外は、まるで押し寄せる津波のように祭をクラスから押し離した。 そして噂が流れてから一週間と 半分たったある日。 祭は退学した。
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