森の精霊

12/13
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 ***  全部の鹿の移動が終わってから少しして、私は我に返ったように車を発進させた。  そして、エゾシカが道路を渡り移動していった場所で、もう一度停止させた。  車を止めた私は、森へと視線を向けた。  でも、当然だけど、木々が彼らを隠している。木の葉は、緑から黄や赤に色が変わり始めている。  エゾシカにとっては保護色になるから、余計に見つけるのは難しかった。  「ほんとにいたよね……」  同行者がいないので、エゾシカの群れを見たことも、私に探るような視線を向けてきたことも、証明する方法がない。  でも、気高く見えた姿は幻ではない。  森に住まう精霊のようだった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!