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全部の鹿の移動が終わってから少しして、私は我に返ったように車を発進させた。
そして、エゾシカが道路を渡り移動していった場所で、もう一度停止させた。
車を止めた私は、森へと視線を向けた。
でも、当然だけど、木々が彼らを隠している。木の葉は、緑から黄や赤に色が変わり始めている。
エゾシカにとっては保護色になるから、余計に見つけるのは難しかった。
「ほんとにいたよね……」
同行者がいないので、エゾシカの群れを見たことも、私に探るような視線を向けてきたことも、証明する方法がない。
でも、気高く見えた姿は幻ではない。
森に住まう精霊のようだった。
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