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+αの誘惑
俺は自室にこもり、パソコンと向き合った。
だが、文章が思い浮かばない。
折角、長年の夢だった連載を勝ち取ったというのに、書けないなんて許されるわけがない。
俺は頭を抱えた。
どれくらいこうしていたのだろう?
気づけば外が薄暗くなっていた。
「煙草吸うか。」
俺は自室から出て、キッチンへと向かった。
「公近さん、お疲れ様です。」
俺はリビングを見回して、驚愕した。
山のように積まれていた洗濯物は綺麗に畳まれ、床に散乱していたゴミはゴミ袋へ分別されていて、積もっていたホコリまで綺麗に掃除されている。その上、テーブルにはいかにも身体に良さそうなメニューがオシャレな皿に盛り付けられているではないか。
これがプロの仕事なのか!
俺は開いた口が塞がらなかった。
「夕飯食べられますか?」
「あ、うん。頂こうかな。」
「はい、温かいうちにお召し上がりください。」
「紅林くんは食べないのか?」
「はい、僕は公近さんのハウスキーパーですので。」
そういうものなのだろうか?
「俺が一緒に食べようって言ったら食べてくれる?」
「それは+αですか?」
「そう、それ!」
「そういうことなら食べます。」
「よし、そうと決まれば紅林さんもここ座って?」
「は、はい。」
少し強引だったろうか。
戸惑いながら、紅林はエプロンを外し、俺の向かいの席に座った。
「今日はありがとうございました。お陰で快適に過ごせそうです。」
俺は紅林に頭を下げた。
「いえ、とんでもありません。公近さんのサポートができて僕も嬉しいです。」
「明日からもよろしく。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
「さてと、堅苦しいのはこれくらいにして、食べますか。」
俺はテーブルに並んだ手料理に舌鼓を打った。
「美味しい!これも美味い!」
「公近さん、ゆっくり食べてください。沢山ありますから。」
「美味いから。つい。」
「嬉しいです。」
「これから、夕飯は一緒に食べること。契約に追加しておいて。食費は追加で請求してくれればいいから。」
「分かりました。」
ハウスキーパーもわるくないかもしれない。
俺はそう思い始めていた。
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