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高取さんが運転席に座って待っている社用車に私は駆け足で向かった。助手席のドアを開けて「すみません!」と謝ってから乗った。すると高取さんは、
「もしかして脇山部長にまた何か言われた?」
と言った。どうやらお見通しらしい。
「あの人の言うこと全然気にしなくていいからね。上に色々言われてるストレスをただただ発散したいだけだから。まあそれを有田さんに当てるなって話なんだけどね。」
あ~もう本当にそうなんです・・!あのパワハラ部長をどうにかして下さい・・!私の窮状を救ってくれる神に思わず手を合わせて拝みそうになる。
「本当にすみません。私がもっとしっかりしていれば・・。」
「別にいいよ。契約を取るなんてそう簡単なことじゃないんだから。私も1、2年目の頃はよく苦労してたし。今回は特に社長の肝いり案件だから、尚更プレッシャーだよね。だから実績ゼロはちょっとマズいと思うけど・・まあ一つでも多くの契約が取れたらいいことには変わりないし、有田さんが実績取れるよう私もサポートするから!」
若い頃は失敗を繰り返して経験を積みそこから学び、上司や先輩のアドバイスをとことん吸収していった方が良いと聞くが、今の私は失敗を繰り返しているだけじゃないだろうか。高取さんもさっき1、2年目は失敗や苦労をしてきたと言っていたけど、高取さんはそこから多くの事を学んだ筈だ。対して私は同じような失敗をして、成績も芳しくなく恐らく周りには「学習しない奴」と思われているだろうし、いつまでも高取さんのような優しい上司に甘えて続けてはいけないんじゃないだろうか。自らの手で実績を獲得する力を身に付けなければならないと思う。
それに、その力を身に付ければ脇山部長のパワハラも少しは収まって営業部の空気も良くなるかもしれない。自分が今後この会社で働く環境を整備する為にも最低限越えなければならないハードルだと思っている。とわかっていても具体的にどうすれば良いか、突破口は未だ見つけられていない。高取さんのような上司を見て良いところを吸収するのが一番手っ取り早いんだろうけど、何せ吸収する力に自信がない。と、情熱がない女の割にはときたまそう思っている。
軈て高取さんの運転する社用車が目的地へと走り出した。シートベルトが普段よりスッと付けられたのは、緊張感からいつもより背筋が伸びていたからかもしれない。高取さんの運転は1年目の時に良く乗っていた。黄色信号では必ず止まる安全運転で安心する。しかも、車内ではいつもラジオが流れている。如何にも「出来る上司」みたいな。
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