第壱話 尊敬出来る上司と尊敬出来ない上司

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 時刻は午前10時、透き通るような美しい女性の声が、リスナーからのお便りを読んでいる。 「それでは早速お便りを紹介していきます。まずは、ラジオネーム『現実だけがリアル』さん。工藤さんおはようございます。おはようございます。私には付き合って3年になる彼氏がいるのですが、ここ最近以前より会話が弾まなくなってきました。付き合って当初は、何でもないような小さい話題でも盛り上がっていたのに、最近は話を振っても『ああ・・そうなん』ぐらいの素っ気なさです。年月が経つとお互いの関係性にも慣れて会話が少なくなると聞きますが、私はいつまでもキャッキャッしていたいというか、些細な事にも楽しく感じて居たいタイプです。でも彼はそういうタイプではなくて・・・私がこの年月の経過による変化に切り替えないといけないのでしょうか?工藤さんはどう思いますか?宜しくお願いします!ん~中々難しい質問ですね~。」  確かに、中々深い質問だ。自分はこう在りたいけど、相手にその価値観を押し付けるのは良くないせめぎ合いに悩まされるあの感情。自分のその時の気持ちを大切にするのも大事だと思うけど、それで関係性が一気に崩れる可能性も大いにある。それは嫌だ。この『現実だけがリアル』さんは今重要な局面に立たされているんだ。どの道を選んで進むかで自分の彼氏さんとの今後の関係性が大きく変わってくるんだ。 「うわ~この悩みめっちゃ分かる~。」 意外にもこのお悩み相談に激しく共感したのは高取さんだった。 「私もさ、25歳くらいの時に付き合ってそれこそ3年目の彼氏がいてさ、似たような悩み抱えてた。」 「え、そうなんですか?というか、高取さんも彼氏さんといつまでもキャッキャッしていたいタイプなんですか?」 「そうよ~意外だった?」  そう笑いながら言う高取さんには申し訳ないが、全然そういうタイプには見えない。いつもの冷静に取引先を分析している仕事ぶりを見ていると恋人にもそれを遺憾なく発揮するもの、戦略的なスタイルなのかと思っていた。でも、恋愛に於いては兎に角その瞬間瞬間楽しく盛り上がっていたいという価値観の持ち主だとのこと。 「だって相手が好きな人だよ?好きな人が笑っているところずっと見ていたいじゃん。それならこっちから楽しませる、その為の情報は進んで提供しますし、その為なら多少体張ってもいいですよ?くらいの勢いで行かないと。」    高取さん恋人の為なら体張れるんだ。「体を張れる」という言葉をまさか高取さんの口から聞けるとは思っていなかった。そして、高取さんは熱くなると言葉遣いが緩くなる。人は見かけによらないとはまさにこのことか。 「まあ、私の場合はグイグイ行き過ぎて最終的に引かれて終わったんだけどね。」 私の知らなかった高取さんをここで怒涛に知ることになるとは。イメージがちょっと変わってしまい、整理するのに少し時間がかかりそうだ。
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