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序章 私という人間
私は夜が好きだ。多くの人が寝静まり、静寂に包まれる穏やかな時間帯。昼間の喧騒の行方が分からなくなるほどの静けさに、私は一種の心地良さを感じる。疎らに建物の明かりが灯る街の景色を自分の住むアパートの部屋から見ていると、これがこの街の本来の姿な気がして急にたまらず自分の住む街のことを愛おしく思ってしまう。多くの人が行き交い賑やかな要素だけが街の魅力じゃない。こういった穏やかさもまた街には必要な一面なのだ。
一口に夜と言っても、季節によって夜は異なる顔をする。中でも特にこの春の、夏に向けて少し気温が高くなっている段階の涼しさを感じるこの時期が好きだ。私は仕事を終えていつも午後7時頃に家に帰り着くが、最寄り駅から家までの閑静な住宅街を抜ける7~8分程度の平坦な道で感じる涼しさと静寂さがどストライクで堪らない。ただ静寂と言っても決して人通りが全くないという訳ではないし、自動車や自転車もたまに通る。私はここを自動車や自転車ではなく、徒歩で通るからこそ感じる風や音を心地よく感じている。
だから私はこの道を歩く時は敢えてイヤホンで音楽を聴かない。街の音をBGMとしている。音楽を聴くのは、駅の手前くらいから。晴れた日や曇りの日は私の足音やすれ違う人の足音がメインだけど、雨の日はガラッとメインが変わる。雨が私の差す透明なビニール傘にあたる音になる。雨の強さによって音が変わるのがおもしろい。だから私は雨の日が苦にならない。
あ、でも湿度が高くて髪がパサついたり、靴の中に雨水が入って靴下が濡れたりするのは嫌かも。私は普段通勤時にはスニーカーを履いて出社している。通気性の良いスニーカーを履いている、というかそれしか持っていないので、雨水がまあまあ染み込んでくる。というのも、配属されて間もなくの頃ヒールで通勤していたら、足を痛めたことがあって、それで外回りに支障が出ると困るからと上司から「通勤時スニーカー」の許可をもらったのだ。会社の更衣室でヒールとスニーカーを履き替えるようになってからは、足への負担は多少減った感じがする。それでもやっぱり昼間ヒールを履いている時は少しキツいと感じる。ヒールは社会人になってから初めて履いたけど、中々慣れない。ヒールを好んで履く人って凄いんだなとひしひしと思う。どうやら私はヒールに対して苦手意識があるみたいだ。
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