第壱話 尊敬出来る上司と尊敬出来ない上司

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 見た目は茶髪のロングで目元がパッチリとしていて如何にも「細かいことは気にするな」という印象だけど、実はこのように言葉遣いとか所作のマナーとかに敏感な人なのだ。年齢は30代前半と聞いたことがある。隣の第二営業部と併せてもこの営業部内で一番年齢が上の女性なので、所謂お局的なポジションにいる。お局と言ってもよくドラマとかで見るような、勤務年数も一番上だからと言って先輩風を吹かせたり、圧をかけたりするようなことはしない。高取さん曰く「自分より年齢や地位が下だからというだけで他人を見下したくない」とのこと。高取さんのこの信念は私も同感で、この命尽きるまでこの信念は忘れることのないようにしようと思っている。 「それじゃあ有田さん、行きましょうか。」 「はい、わかりました。」  朝礼が終わってすぐ外出する準備が整えた高取さんが、行動予定表の自分と私の欄に今日行くスーパーマーケットのある地域の名前を書いて扉を開けてフロアの外に出ていった。私も急いで机上のノートパソコンを閉じて、持って来たペットボトルの麦茶を少し飲んで高取さんの後を追った。  だけど、そのフロアを出ようとした矢先に脇山部長が「おい!」と私を呼び止めた。扉のノブに手をかけようとした私の動きが止まる。ゆっくり振り返ると、鋭い目つきの脇山部長が足を組みながらこちらを見ていた。 「有田、今度こそ分かってんだろうな?」 「はい・・頑張ります・・。」 背中を丸めた状態でか細い声で答える。 「もう何回頑張ってんだろうな。頑張るって言えば許される、その場を凌げると思ってんのか?まあそりゃそうなるか~。当然の結果な訳だ。頑張るんじゃなくて結果取ってこいや。」 脇山部長が半笑いで言った。私は何も言えず軽く会釈してフロアを出た。  脇山部長が怒るのも無理はない。実は、この営業部内で八女の新茶を使った新商品の契約を1件も取れていない。この状況なのは今私だけなのだ。今回の外回りもそんな私の窮状を見かねた高取さんが、脇山部長に進言して決まったことなのだ。私が不甲斐ないばかりに高取さんの時間を奪ってしまっている、迷惑をかけてしまっている、そんなこと私が一番良く分かっている。今日こそは高取さんの手を借りてでも何とか契約に繋げて、営業部の足を引っ張らないように、高取さんの時間をこれ以上奪わないようにしないといけない。いつもより強く踏み出した為か、コツコツと言う私のヒールの音が廊下に響いて聞こえた。
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