Show Must Go On!

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桜の季節を通り過ぎ、翠さざめく季節にうつりゆくころ、僕らは小汚い部室でミーティングをしていた。 部室の中はむさくるしい男どもであふれている。 ここは七川高等学校、演劇部部室。 七川高等学校は県内でも最後の生き残りと言われる男子校で、なおかつ進学校である。 進学校であるがゆえに、夏以降は受験勉強に集中させるべく、6月の頭に学園祭が行われるのだ。今日はその学園祭におけるお芝居を何にするか、打ち合わせるミーティングだった。 1年生も初の舞台となる。 例年、3年生の最後を飾る舞台となるので、3年生の演じたい演目をするのが恒例となっていた。 ただし、その3年生の壮大なるわがままを聞き届けて振り回されるのは僕ら、新2年生になるわけで、次期部長に就任が決まっている僕、日高旭を戦々恐々とさせていた。 男臭い中、3年生の先輩があれこれ自由にいろいろ言いつのるのを僕を黙って聞いていたし、照明班、音響班もいつ何時変なリクエストを振られるかびくびくしていた。 こう見えて、七川高校の演劇部はへなちょこが勢ぞろいしているわけではなく、なぜかめちゃくちゃ男らしい、屈強な学生が集まるものだから、後輩は否、はなしだった。 ぱっと見は運動部に見えるほどである。実際運動部に近いのは確かだが。 演目についてはすんなりと予想外に決まった。 「ロミオとジュリエットの現代版でパロディやってみようぜ!」 僕らはほっと胸をなでおろした。3年生たちが脚本を書いてくれるだろうし、現代版であれば衣装の心配もしなくていい。 だが、そうは問屋が卸さなかった。 現部長山本龍哉が部員全員の顔をじいいっと見渡して、それから最後、僕にひた、と目をくれた。 やばい、と直感で感じた。 「…日高よう、ジュリエット役、誰か綺麗なやつ口説いて来いよ。こいつらからじゃちょっとやる気でないわ」 僕はあやうくゲッ、と口走りそうになった。 そう、ここは男子校。女性役を演じる場合は部員の中で女装をして、演じることになっている。しかし。 「あの…お、俺じゃダメですかね?!」 言うに事欠いて。慌てて僕はそう口走っていた。 「ないわー。おまえ顔男だもん無理」 あっさり撃沈。 ふざけんな、顔立ちが綺麗な男子学生を誘って、演劇部に一時的に引き入れろっていうのかよ!! 怒鳴りたくなるのをかろうじて堪える。みんなが気の毒そうに僕を見つめている。 2年生なんかはみんなとばっちりを受けたくないからうつむいてしまっている! 「じゃ、頼むわ!」 部長は、そう言うとミーティングを締めくくった。
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