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魔法士集結、そして
「何だ、ここは…」
「もしかして、ここって…何かの研究場所なのかも」
「だな……」
イアンが奥へと踏み出そうとした時、背後に気配がした。二人は、同時に振り向いた。
すると、そこには黒いローブの女がいた。
その人物はローブを深く被っていて、口元を緑の布で隠している占い師のような風貌だ。
「あら、流石ね。気配を隠していたつもりなんだけど…。」
「(黒いローブ…。声からして女か?さっきの髭面のオッサンが言ってた奴らの仲間か?)ここで何をしている?闇魔法石もお前の物か?」
「さぁ…。どうかしら。」
謎の女は、それだけ言うと魔法の詠唱のような物を唱えた。
すると、突如としてイアンの足元に魔法陣が展開された。その魔法陣は、青黒く光るとイアンを吸い込もうとする。
「なっ…これは…!」
「イアン!待ってて!今助けるから!」
セリスは、急いでイアンに駆け寄る。そして魔法陣に吸い込まれそうになってる、イアンを助けようと試みる。
しかし、必死に引っ張るが、なかなか引き抜く事が出来ない。
それを嘲笑うように、黒いローブの女は魔法を強める。
「セリス!やめろ!」
「嫌だ!やめない!」
「お前まで吸い込まれる!離せ!」
「絶対離さない!」
「二人共居なくなったら誰が城に戻って報告するんだ!」
「だけど、イアンを見捨てるなんて出来ない!そうだ、通信用魔法具で応援呼ぶから!」
「セリス!」
「っ!」
イアンは必死に、セリスに離すように言うが彼女は頑なに聞かない。
もう、両足と腰まで吸い込まれている。それでもなお、彼女は引っ張る事を止めない。そんなセリスを、イアンは一喝するように名前を読んだ。
セリスは、それに喫驚し、動きを止めてイアンを見た。
「もう多分、間に合わない…。お前だけでも、これ持って城に戻れ。布に包んだから、お前でも触れるはずだ。」
「嫌だよ!イアンが持って帰ってよ!」
「!それは…闇魔法石かしら。返してちょーだい。」
イアンは、そう言うと闇魔法石をポケットから出しセリスに渡した。それを見た黒いローブの女は、奪い返そうとセリスに手を伸ばした。
しかし、その手はイアンに阻まれ届かない。
黒いローブの女が舌打ちをする。
「セリス、頼む。今はお前しか頼れる奴が居ないんだ。」
「……。」
イアンに切なそうな顔で言われて、セリスは何も言えなくなる。イアンは、そんな彼女に、少しだけ微笑む。
「行け!セリス。大丈夫だ、直ぐに帰る。だから、少しだけ待っててくれ。」
イアンは最後にそう言うと、完全に魔法陣に呑み込まれていった。
その後、セリスは直ぐに駆け出し全速力で城に戻った。城に付くと先輩魔法士の居る部屋に行き、白い扉をノックもせずにバン!っと荒々しく扉を開けた。
「セリス、ノックぐらいしたらどうだ。」
と、セリスに声をかけたのは、蒼色の少し長めの髪を一つに結っている男だ。
名をレイソン・ウェイドと言い、セリスとイアンの先輩魔法士であり同僚である。セリスにとっては、イアンとは別の意味で、頼りになる兄的存在だ。
レイソンは、作業をやめて扉の前にいるセリスに目を向ける。彼の執務机の上は綺麗に整理されて居る。
「ハァ…すいません…ウェイドさん。緊急事態、でして」
「緊急事態、だと?」
息を荒くしながら言うセリスに、レイソンは、眉を潜める。
「はい…。まずはコレを…。」
「これは、闇魔法石じゃないか!どうして、こんなものを!?」
「それが…。」
セリスは、イアンから預かった闇魔法石をレイソンに渡した。そして、先程町の巡回中に起きた事を全てを話した。
「なるほどな…。分かった。この石の事は俺から陛下にも伝えておこう。」
「ありがとうございます。」
それから直ぐに、魔法士達は謁見の間の王座の前に集められた。
「全員揃っているようだな」
「はっ!」
威厳のこもった国王の言葉が謁見の間に響く。
その声を聞いて、魔法士達はみな、膝を床につけ、一斉に頭を深く下げるようにする。
「頭を上げよ、皆に集まってもらったのには理由がある。それは、この石の事じゃ。この石、闇魔法石は皆も知ってのとおり大変危険な代物だ。それが何者かに狙われているらしいと、情報が入った。」
それを聞いた魔法士達は、ざわつき始める。そんな中、セリスは一人直ぐにでも助けに行きたい衝動を押さえ黙っている。
アリサンド王が、ゴホン!と咳払いをして、場を鎮める。
ガレンが跪いたまま挙手をした。
「陛下、質問よろしいでしょうか?」
「構わぬ。言ってみよ」
「ありがとうございます。イアンが居ませんが…。それも関係しているのでしょうか?」
「うむ。彼は今、その者共に捕らえれている可能性がある。そうじゃな、セリスよ」
「はい。何者かの魔法により行方知れずです。おそらく、どこかに転送されたかと思われます。」
「そうですか、ありがとうございます。」
ガレンは、アリサンドに礼を言うと顔を曇らせた。
アリサンド王は、他の魔法士達の意見も聞くために、それきり何も言わなかった。
「それで、我々はその輩を捕らえろと言う事でしょうか?」
今度はオレンジ髪のウルフカットの男魔法士が尋ねる。
体はライル・クラーク。レイソンと同期の魔法士である。
「そうじゃ。イアン・ヴァイオレンの救出と、その者共を捕らえろ。人選は任せる。」
「はっ!」
魔法士達は一斉に返事をすると、救出に向かう面子を決めにかかる。
「で、セリス。誰にするんだ?」
「私が決めて良いんですか?」
「あぁ…。今回はお前が見つけた事だからな。それに行きたくて仕方ないって顔してるぞ。」
「それじゃあ…」
レイソンに聞かれて、セリスの脳裏に浮かんだのは、ガレンとエミリアだ。
しかし、今回はその二人ではなくて、他の人に頼むことにした。
「クラークさん、ルクレールさん!お願いします!お二方の力が必要なんです!」
ルクレールと呼ばれたのは、水色短髪の女魔法士だ。レイソン、クラークと同期である。
セリスは二人に頭を下げて懇願した。
「分かった。良いよ。」
「可愛い後輩から、お願いされたら断れないしな~。」
「ありがとうございます!」
クラークとルクレールは、セリスの頼みを快諾した。セリスは、二人にもう一度頭を下げて礼を言った。
「じゃあ準備してくるね。」
「おれも。」
二人は支度をするために自室に戻った。
他の魔法士達も解散となり、各自戻っていく。
その後直ぐに二人は支度を済ませた三人は、城を出た。
「それで?どうやってヴァイオレンの居場所を探すんだ?」
「これを使います!」
クラークに問われ、セリスが取り出したものは、六角形の平たい器具だ。
「それは、距離探知の魔法道具…。」
「はい…魔法距離感知器です。これで、イアンの居場所を探し出します。」
魔法距離感知器とは、対象の人物が、どんなに遠方に居ても、位置を捕捉できるという魔道具だ。
ちなみに、対象が死亡した場合や魔力が著しく減少していると、感知出来なくなる。
セリスを含めた、魔法士達全員に魔力を探る能力はあるのだが限度がある。なので、今回は、この魔法具を使う事にしたのだ。
「でも、それって確か、対象者の魔力を覚えさせないと、使えないんじゃなかったか?」
「大丈夫です。イアンが持っていた布に残っている、イアンの微量の魔力を覚えさせます。」
「あー、その手があったか!」
クラークは、手をポンッと叩き納得した。
その間に魔法距離感知器が、イアンの居場所を突き止めた。
「イアンは、北西の方角にいるようです。距離は、およそ五十キロほど。」
「よし!じゃあ場所も分かったし行くか!」
こうして、セリス、クラーク、ルクレールの三人はイアン救出へと向かうのだった。
(待っててね、イアン!)
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