いざ、イアン救出へ

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いざ、イアン救出へ

この時、イアンは見知らぬ牢のような場所に飛ばされていた。 (ん…。ここは…) イアンが、目を開けて辺りを確認すると、そこは石造りの小さな牢屋だった。 (どこかに転送されたか……。それにしても、何だったんだ、あの空間と黒いローブの女は。何にしても早く、ここから出ねぇと。) そう思いながら、体動かすとジャラと音がした。手足を見ると手は鎖で縛られ、足には鎖付きの足枷のようなもので壁に繋がれているではないか。 (チッ。逃がす気はないってことかよ…。) イアンは、どうにか鎖を外そうとするが、そう簡単には外せない。ならばと、鉄格子を魔法で破壊しようとするが、魔法も封じられているようで発動しなかった。 (クソ!鎖は外れねぇ!魔力も封じられてるのか!八方塞がりかよ。) どうにもならない状況に、イアンは焦っていると、誰かの足音が牢屋に近づいてくるのが聞こえてき。耳を澄まし、神経を研ぎ澄ませると、どうやら足音は自分の方へと来るのがイアンには分かった。 その足音はどんどん近づいていてきて…。 (こっちに来るな…これは。) そして、ついに足音はイアンの牢屋の前で止まった。イアンは一度中断し、鉄格子の向こうを睨むように見た。するとそこには、黒いローブの男が二人立っている。一人をAとし、もう一人をBとしよう。   「なんだ、起きてるのか」 「ちょうどいい、起こす手間が省けた。 おい、お前闇魔法石をどこへやった?あの場所にあったやつだ。」 「言うわけないだろうが。そもそもアレは、違法な物だ。持ってる方がおかしいんだよ。」 「随分、生意気な態度だな。自分の置かれている状況が解っていないのか。」 「生憎と、こんなんで怖気づくようなタマじゃないんでな。」 イアンは不敵な笑みを浮かべる。 「ほぉ……。だが、その威勢がいつまで持つか見せてもらおうか。おい、あれ出せ」 「ほらよ」 Aの男は、Bの男から緑色の液体が入った小瓶を受け取り、牢屋の鍵を開けて中に入った。そしてイアンの顎を掬い上げ、その液体を口の中に流し込んだ。 「んぐ!」 イアンは、それを飲み込まず吐き出そうとしたが、Aの男に口を塞がれてゴクンと飲み込んでしまった。 Aの男は、イアンの喉が動いたのを見ると手を離した。突然飲まされたイアンは、咽ながら睨みつける。 「ゲホッ!何を飲ませやがった…」 「何、ただの毒だ。安心しろ、遅効性の物だから、直ぐには死なん。」 「闇魔法石の在り処を教えるってなら、解毒剤をやっても良いがな。」 黒いローブの男二人は下品な笑みを浮かべ、それだけ言うと、牢屋から出て再び鍵を閉めた。そして、来た道を戻っていった。 足音が完全に聞こえなくなると、イアンは、どうにか鎖を壊そうと再びもがく。 だが、やはりビクともしない。 「チッ。魔法さえ使えたら、こんなもの直ぐに外せんのに!」 彼は、腹立たしげに吐き捨てると、鎖を外すのを諦め、別の方法がないか思考を巡らせる。 (鎖も足枷も外れねぇ、魔法も使えねぇ。 この状況で、何が出来る? そもそも何で魔法を使えない?この鎖や足枷のせいなのか?それとも、この空間に何かしてあるのか?) そして、何か使える物はないかと、辺りを見回すが何もない。あるのは薄暗い石畳と壁だけだ。 「チッ。何もねぇ…。大人しく助けを待つしかないのかよ。」 悔しさに顔を歪めるイアン。 ならせめてと、毒が回るのを遅らせる為に、大人しくしている事にした。 胡座をかきじっとしていると、彼の頭にはセリスの事ばかりが浮かんでくる。 (アイツは、あの後無事に城に戻ったんだろうな?捕まってなきゃ良いが……) (泣いてないだろうな…) (待ってろ、とは言ったが大人しく待っているような奴じゃないか……。) イアンが物思いにふけっていると、不穏な会話が耳に入ってきた。 「暗緑色の髪の女は見つかったのか?」 「まだだ。」 「チッ。あの女、どこ行ったんだよ」 (暗緑色の髪……。…セリスの事か!?奴ら、セリスを探してるのか。だったら、なんで、あの時セリスじゃなくて俺を捕まえたんだ。) 彼の頭に一つの憶測が浮上した。 (まさか…、俺をダシに、セリスを誘き寄せる為か?……頼むから、一人で来るような無茶はするなよ…セリス) その頃、セリス達は城を出て、魔力距離感知器(エーテルトレーサー)を頼りに、北西へと猛スピードで、馬を進ませている。 エルヴェリアの王都から向かって北西は、建物などが、少なく平地の草原が多い。 故に、馬を走らせやすいのである。 「セリスちゃん、少しスピードを落として!」 「そうだぞ!危ないよ!」 「でも、急がないと!」 先頭を走るセリスに、後ろからルクレールとクラークが声をかけるが、セリスはスピードを落とす事なく、どんどんと進んで行く。 こうしている間にも、イアンが酷い目にあっていると思うと、心一刻も早くと心を急かされずにはいられないのだ。 「まだ、魔力距離感知器は反応してるんでしょ?」 「はい!」 ルクレールに問われ、セリスは魔力距離感知器を、ちらりと見てから答えた。 「なら、まだヴァイオレン君は、まだ魔力もあるし生きてるから大丈夫だよ!」 「何かあってからじゃ、遅いじゃないですか!」 「それは、確かにそうだけど…。」 セリスのあまりの必死さにルクレールは、それ以上何も言えなくなり、言葉に詰まる。 そして、彼女の心境を思うと、それも仕方がないかと内心で思い、苦笑を浮かべた。 「ところで、何でオレ達を指名したんだ?いつもの面子の方が良かったんじゃないか?」 「それは、お二人の魔法なら、例え狭い場所でも戦えるかと…。 それに、敵の数も分からないので、クラークさんの空間把握能力が必要かなと思いまして!」 「なるほどな〜」 ルクレールの使う魔法は氷魔法で、クラークの使う魔法は、金属属性である。 ガレンの炎の魔法や、グレースの植物魔法では狭い場所では戦いにくい時がある。しかし、この二人の魔法であれば、大丈夫なはず。 そして、クラークには、その空間にいる人物の数や、物の位置等を正確に視る事が出来る能力がある。 その精度は高く、数キロ先でも位置を特定出来るほどだ。今回は、そのクラークの能力が大いに役に立つとセリスは考えたのだ。 それを聞いて、クラークは納得した。 そうこうしていると、三人は魔法距離感知器が示す地点まで到達した。だがしかし、そこには、建物はなくだだっ広い草原が広がっているだけだった。 「おかしいな…この辺りのはずなんですけど……。」 「壊れてるんじゃないのか?それ」 「そんな事はないと思いますけど……。イアンの魔力を探ってみます。」 首を傾げるセリスに、クラークが魔法距離感知器を指さして言う。そして、セリスは、目を閉じて集中してイアンの魔力を探し始める。
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