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セリスの戦い
セリスは、イアンの居る牢屋へと続く道をひたすらに走る。
(そうだ!解毒剤!解毒剤の事聞かなきゃ!でも、誰が持ってるのか分からない…。何処にあるの!?)
と、走りながらセリスが思案していると、先の方に明かりが見えてきた。そして話し声もする。
「おい、本当にあの毒の解毒剤はあるのか?」
「あぁ…。一応はな。だが、飲ます気はない。」
(あの人達がイアンに毒を!?)
どうやら、毒の解毒剤の話をしているようだ。セリスは、走る速度を上げて、明かりのする場所まで行く。
そして、素早く背後に回ると光拘束で捕縛して、解毒剤の事を聞き出す。
「あなた達、毒の解毒剤の何処にあるのか!教えなさい!早く!」
焦りと苛立ちからセリスの声は、刺々しい。
「誰が教えるか!馬鹿が!」
「なら、無理やりにでも言わせるまで!」
セリスが魔法を強めると、拘束する輪の締め付ける力が増し、男達は苦しげに呻いた。
「うぐっ!」
「ぐ!」
「さぁ、早く言いなさい!」
「わ、分かった!解毒剤のある場所は…」
男達は観念し、解毒剤の場所を白状した。
セリスは、聞いた場所へと足を進める。
すると、小さな隠し棚のような物を発見した。棚の扉を開けると、透明な小瓶に入った紫色の液体があった。
(これかな?なんか凄い色してるし、毒にしか見えないけど…)
目当ての物を見つけたセリスは、それを手に取ると、怪訝そうな顔で男達に問いかける。
「これ本当に解毒剤?これも、毒じゃないでしょうね?」
「疑うなら試してみたらどうだ?」
「……そうする。」
セリスはそう言うと、自分の手に数滴垂らすと、少し躊躇ってから舐めた。
「まっず!」
かなりの不味さのセリスは顔を歪める。だが、不味いだけで身体に特に異変はないようだ。セリスは、とりあえず良しとした。
「で?鍵はどこ?」
「鍵は、この奥にある。」
「そう。じゃあ、もう寝てて良いよ。」
「な!?ぐぁ!」
セリスは、男達を拘束したまま気絶させた。そして解毒剤の瓶と鍵を手にイアンのいる牢屋まで急いで向かおうとした。
次の瞬間。
セリスの体を衝撃が襲った。
どうやら背後から魔法で吹き飛ばされたようだ。
それでも、彼女の手にはしっかりと解毒剤が握られている。
「いった…」
セリスは体の痛みに顔を顰めながら、体を起こし振り返る。すると、そこにはイアンを此処へ飛ばしたローブの女がいた。
「あなたは…あの時の!よくも…」
「あら、まだ生きてたの?しぶといわね。」
女はそう言うと、セリスに再び魔法を放った。
「くっ!」
セリスは、咄嗟に光の盾で防ぐ。
女の攻撃は強力で、光の盾が軋みを上げている。セリスの額に汗が流れた。
なんとか防ぎきると彼女は攻撃に転じた。
光の盾を解くと、すかさず光魔法で攻撃を仕掛ける。
「光刃!」
放たれたいくつもの光の刃が、高速で女目掛けて飛んでいく。だがしかし、それは防御壁で防がれてしまう。
光矢の攻撃が止むと、女の反撃が始まった。
「次は私から行くわよ」
ローブの女から放たれる魔法が、次々とセリスを襲う。なんとか、光の盾で防ぐものの、先程よりも強力で耐えきれず、盾がバリーンと音を立てて壊れた。
「きゃああ!」
ローブの女の魔法が、セリスに直撃し彼女は地面に倒れた。
しかし、直ぐに立ち上がり光線を打つ。
ローブの女は、先程同様に防御壁で防ぐものの、その圧倒的な威力に、防御壁ごと壁に打ち付けられる。
それでも、その女は顔を歪めつつも立ち上がる。
「今のはちょっと油断したわ。」
ローブの女はニヤリと、笑みを浮かべると魔法を行使する。
「これで、終わりよ。」
女の背後に魔法陣が出現した。そして、そこから巨大な岩が雨のように降り注ぐ。
セリスは、光矢を繰り出し岩を砕いていく。
なんとか全ての岩を砕き終わると、セリスは脂汗を流し肩で息をしている。
「ハァ…ハァ…。(さすがにキツイな。)」
「あら?もう限界?」
「誰が!(もうこれ以上は時間かけてられない。仕方ない、あれやるしかないか)」
セリスは覚悟を決めた。
魔力を練り直し高めると、体のエネルギーを集中させる。そして、掌を前に突き出し
|光弾を放った。
放たれた光弾は、ローブの女に直撃した瞬間炸裂した。
激しい閃光と、鼓膜が破れるのでは無いかと思えるほどの爆音が辺りを支配する。そして、爆風が吹き荒れ土埃が舞う。
土埃が晴れると、ローブの女がいた場所は、地面が抉れ大きな穴が開いていた。その穴の中には、ローブの女が倒れている。
「やった……かな?」
セリスが、警戒しながら近付くと、女は虫の息だったが生きていた。彼女は、その女を拘束用魔法具で捕縛すると、イアンの居る牢へと急いだ。
(時間かかっちゃった…急がなきゃ!)
ようやく牢屋に着くと、セリスは急いで鉄格子の扉を開けて中に入る。
「イアン!助けに来たよ!」
「セ…リス……?」
「良かった…、まだ生きてた!」
セリスの声に、イアンは下を向いていた顔をあげた。顔色は悪く苦しそうな様子だ。それでも、意識はあるようでセリスはどうにか間に合った事に少し安堵した。
その後、急いで駆け寄り、彼に手と足に付けられている鎖を外した。するとイアンは、そのまま彼女に凭れ掛かるように倒れてきた。
「うっ…ゲホッ」
「しっかりして!イアン!解毒剤持ってきたから!もう少し耐えて!」
セリスは、それを受け止めると壁に寄りかからせた。そして、解毒剤をポーチから取り出した。それを見たイアンは、眉を潜める。
「それ……、ほんとに……解毒剤か?……毒…にしか、見えねぇけど…」
「私もそう思って、試してみたけど大丈夫だったよ。」
「試した…て、お前…。それも…毒、だったら、どうすんだ。お前まで、毒に…うっ。」
「だから、大丈夫だったって言ったでしょ。」
「……そ…か…、なら、くれるか?」
「うん」
セリスが、解毒剤の入った小瓶をイアンに渡すと、彼はそれを飲み干した。
すると、いくらかイアンの顔色は良くなり、呼吸も落ち着いてきた。
「どう?」
「あぁ…、少し楽になった。ありがとな。」
「うん!」
心配そうに顔を覗き込むセリスに、イアンはまだ具合の悪そうな顔で笑ってみせた。
それを見て、セリスも一安心する。
「ところで、セリス、お前…まさか一人で来たのか?」
「ううん、クラークさんとルクレールさんも一緒に来てるよ。」
「あの二人が?」
「うん。私がお願いしたの。きっともう少ししたら来るよ。」
「そうなのか…。」
ちょうどそこへ、セリスを追ってきたルクレールとクラークの二人が追いついた。
後から来た二人は、セリスとイアンの無事を確認しホッとしたような表情を浮かべている。
「どうにか間に合ったみたいだね。」
「ヴァイオレン、大丈夫か?」
「はい……、セリスに解毒剤貰いましたから、どうにか……」
イアンは、顔を上げてクラークとルクレールを見ながら言った。
「んじゃ、まぁ…少し休憩してから帰るか。セリスちゃんもボロボロだし」
「えっ、いや!私は全然平気ですよ!」
クラークの言葉をセリスは両手を振って否定したが、服は所々破れ、体には傷だらけだ。
そんな彼女の姿を、改めて見てイアンは眉を潜める。
「どうしたの?イアン。苦しいの?」
「いや…。大丈夫だ。それより、ごめんな。俺のせいで、こんな傷だらけにさせた。」
眉を顰めて、セリスの顔に手を当てて言うイアンに、セリスは微笑む。
「!そんな顔しないで。イアンのせいじゃないから。」
「けどな…!」
「イアンが私を守ってくれるように、私だってイアンを助けたかったの。」
「……っ」
「それに…、それにね。イアンは大切な恋人だし仲間だから、助けるのは当たり前の事!だから、ね?気にしないで。」
「……お前は、なんでこういう時だけ、そんな大胆なんだよ。(やっぱり、こいつには敵わねぇな…)」
今度はイアンが目を丸くした。
そして、傷だらけの顔で微笑む彼女がやけに眩しく感じて、彼は目を細めた。
そんな二人を見てクラークが、茶化す様に口を挟む。
「いいよなぁ、ヴァイオレンは。セリスちゃんにそんなに想われてて。羨ましいったらない。」
「そういえば、クラークさん。セリスに手出してませんよね?」
「出してねえーよ、流石に。」
「なら、いいですけど…」
イアンがクラークに疑いの目を向ける。
クラークが常日頃から、セリスにちょっかいを出しているため、信用ならないのだ。
「もう!イアン!クラークさんのおかけで、此処を見つけられたんだよ!」
ジト目でクラークを見るイアンに、セリスが窘なめた。
「そう…なのか」
「そうだよ、ちゃんと感謝しなきゃ。」
「……そうだな。ありがとうございます、クラークさん。助かりました。」
「おう!」
セリスに言われ、渋々といった様子でお礼を言うイアンに、彼は笑顔で答えた。
その後、少し休憩してから帰ることになった。
「さて、じゃそろそろ行くか」
「そうですね」
イアンが動けるまでに回復すると、四人は来た道を歩き出した。まだ辛そうなイアンを気遣いながらセリスは歩き、先を行くルクレールとクラークは捕縛しておいた輩達を回収しながら進む。
そして、入口の穴まで来ると、クラーク、ルクレール、セリス、イアンの順番で外に出た。
「ヴァイオレンは、誰の馬に乗って一緒に帰るんだ?セリスちゃんか?おれのでも良いし。どうする?」
「じゃあ……」
そんな話をしながら、草原を歩き始めた四人。
このまま無事に帰れると思われた。
ところが。
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