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尋問
四人の頭上に大きな影が覆った。
上空を見上げると、そこには巨大なドラゴンが旋回していた。
「おい、まじかよ。」
「なんで、こんな場所にドラゴンが…。」
クラークと、ルクレールが信じられない物を見たような顔で呟くように言った。それも、そうだろう。この草原には、ドラゴンは生息していないのだから。
「奴に見つからないうちに早く逃げるぞ!ヴァイオレンは、おれの方に来い!」
「分かりました!」
「分かった!」
「はい!」
三人は返事をすると、馬を止めている場所まで急ぐ。だがしかし、その途中でセリスが足を縺れされ転んでしまう。幸いにも、下が草のおかけで、新しい怪我はしていない。
「セリス!大丈夫か!」
「いたた…。うん、大丈夫…。」
イアンがセリスに手を差し伸べながら言うと、彼女は苦笑いを浮かべた。
次の瞬間、セリスは不意に浮遊感を感じた。どうやらイアンが、彼女を持ち上げ姫抱きにしたようだ。
「ちょ、ちょっとイアン!大丈夫だから、降ろして!」
セリスは、顔を赤らめてジダバタともがく。
「お前もう魔力も体力も限界に近いんだろ?」
「それは、そうだけど……。でもイアンだって毒で体がまだ…。」
「それでも、俺は温存してた分セリスよりは、体力も魔力もある。」
「何やってんだ!急げ!」
クラークが二人に叫んだ。
「今、行きます!」
それに返すとイアンは、セリスを姫抱きにしたまま、馬まで走った。そして、彼女を先に馬に乗せながら、セリスに告げる。
「セリス、お前は後ろに乗れ。俺が前に乗る。」
「えっ?でも……」
「お前は、お前が思ってるよりずっと消耗してるはずだ。俺は今日あまり、魔力使ってないしな。分かったら無理せず後ろに乗れ。」
そう言われ、セリスは申し訳ないとは思いつつ頷いた。
「クラークさん、俺セリスの馬に乗ります。」
イアンは、セリスの前に乗り込み手綱を握った。全員が馬に乗ると、「良し!行くぞ!」と言う合図で、三人は馬を走らせた。
なんとかドラゴンから逃げ切り、四人はエルヴェリア城に帰還した。
城に入るや否や直ぐにイアンとセリスは、ルクレールに促され医務室へと向かうことになった。
「クラークさん、ルクレールさん、ありがとうございました。」
医務室へ向かう前にセリスが、そう言って礼を述べると、彼らは笑い飛ばしながら答える。
「いいって!礼なんて言わなくて。困った時はお互い様だろ?」
「そうだよ、セリスちゃん。仲間なんだしね!」
「はい!」
「じゃ、おれ達は行くな」
そうしてクラークとルクレールは、セリスと別れると、連行してきた輩達を城の牢屋へと入れに行った。
二人が去った後、医務室へと向かったセリスとイアンは、ギルバードによって、手当てや治療を施された。
特にイアンは、解毒剤により幾分良くはなっているものの、毒が抜けきるまでは医務室で寝泊まりする事となった。
かくして、イアンの救出は無事に終わった。
それから3日後。
城へと連行した輩達の尋問がされることになった。尋問室では今、レイソンが、その者達に問い詰めている最中だ。
「お前達は何者だ?」
「我々の素性は明かせない…」
「何故だ、誰かに口止めされているのか?」
「………」
男はレイソンの質問に口を噤んだ。
「黙秘か…。なら質問を変える。目的は何だ?闇魔法石を使って企んでいた?」
「我々の研究には闇魔法石が必要だった。」
「研究?何のだ?」
「それは教えてやるつもりはない。」
「そうか…。なら、闇魔法石はどうやって手に入れた?」
「……」
ただ男はふっと息を吐いただけでレイソンの質問には何の反応も見せずだんまりを決め込んだままだ。
多分拷問の末に吐き出さない限り白状しないつもりなのだろう。
レイソンは、ため息をついた。
と、そこへガチャリとドアを開けて、尋問の様子を、部屋の外から見ていたイアンが入ってきた。
「レイソンさん、代わってください。そいつに聞きたい事があります。」
「ヴァイオレン…。しかし、お前まだ本調子じゃないだろう」
「平気です。」
「解った……」
イアンの飲まされた毒は遅効性だが、しぶとい毒だったようだ。未だに毒が抜けきっていない。そのせいで調子が戻っていない。
それでも、彼が尋問室へと足を運んだのは、彼にとってどうしても聞かなければならない事があったからだ。
「なら、任せた。」
「はい。」
レイソンは、イアンの肩を叩くと部屋を出ていった。
イアンは、椅子に座ると鋭い目で目の前の男を見据える。
「さて…。個人的に聞きたい事がある。お前達の狙いは暗緑色の髪の女を見つけ出す事だな?」
「何のことだ」
「とぼけるな。俺は聞いたんだよ、あの場所で、暗緑色の髪の女を見つけろってな。」
「……」
「その女を探して何をするつもりだった……?まさか、研究とやらの実験台にでもするつもりだったんじゃないだろうな?」
イアンは、男達を見下ろしながら低く冷たい声で問い詰める。しかし男は答えない。
「言え!何をするつもりだった…!」
イアンは、男の胸ぐらを掴みあげる。その拍子に椅子が、ガターンと音を立てて倒れた。
「ぐっ」
男は、くぐもった声を出した。
「違う」
「なら、その女を殺せば研究に力を貸してやるとでも誰かに言われたか?」
「それも……違う」
「じゃあ、何なんだ!なぜセリスを狙う!?いい加減、吐け!」
より一層凄みを増すと、男を今度は壁に力強く押し付けた。
セリスが危険な事に巻き込まれるかもしれない可能性は、少しでも排除しておきたい。
彼は、その為にも何としても聞き出すつもりでいるのだが…。目の前の男は、なかなか口を割ろうとしない。イアンの苛立ちは募るばかりだ。
(強情な奴だな…。更に締め上げるか…)
と、イアンが考え出した時。
「落ち着け、イアン」
イアンの背後から、男の声がかかった。
振り向くと、そこにはガレンの姿があった。どうやら彼はレイソンと入れ替わりで来ていたようだ。ガレンは、イアンの腕を掴んで止めさせた。イアンは不満げな顔でガレンを見やる。
「止めるな、ガレン」
「いや、でもな。止めないと、お前そいつ殺しそうな勢いだし。」
「そんな事はしない。俺はセリスを守りたいだけだ。」
「あー、それは分かってる。
お前いつも冷静なのに、セリスの事となると見境いなくなるよな…」
「うるせぇ」
ガレンの言葉に、バツが悪そうにイアンは目を逸らす。
「とりあえず離してやれ。それじゃ話すにも話せねぇよ」
「チッ…仕方ない」
イアンはガレンに言われ、舌打ちをすると渋々手を離す。すると、男が咳き込みながらその場に崩れ落ちた。そんな男をイアンは冷たい目で見下ろしている。
その横で、ガレンはしゃがむと、イアンを指さしながら話す。
「お前もいい加減、話せよ。じゃねぇと、もっと痛い目みることになるぜ?こいつ、そろそろ我慢の限界っぽいし。」
「おい…」
イアンは、余計な事を言うなとガレンを目で制した。
「へいへい…。…で?こいつ、どうする?吐かせたいんだろ?」
ガレンは、そんなイアンを軽くあしらいつつ男に目を向ける。
「ああ……。セリスを狙ってると分かった以上、看過は出来ない……。」
「そりゃそうか…。ま、やりすぎるなよ。程々にしとけよ。」
「分かってる」
イアンはそう言うと、再び男を冷たく見下ろす。その表情からは感情が読み取れない。しかし目が明らかに怒っているのが見て取れる。
「椅子に座れ。仕切り直す」
イアンに促され男は椅子に座る。それを見てイアンも座った。
しばらく尋問室の中を沈黙が流れる中、先に口を開いたのは男の方だった。
男が自白した内容は、こうだ。
闇魔法石の研究に、セリスも必要だったと。
それを聞いたイアンから、どす黒いオーラが溢れ出た。
男は続ける。
闇魔法石の力が、光属性によってどのくらい弱まるのか、影響があるのかを調べる為だったと。
「ふざけるなよ…、そんな下らない事の為にセリスを狙ったのか!巻き込むつもりだったのか!」
イアンは、青筋を浮かべ怒気を含ませた声で男に向かって言い放った。
「下らない、だと?お前にとっては、下らない事でも我々にとっては重要な事だ。」
「そんな事、誰が許すか!
そもそもこの国では、闇魔法石の所持は禁じられてる。研究なんてのは以ての外なんだよ」
「………」
男は黙り込み、イアンから目を逸らした。
「闇魔法石についての尋問は、他の奴に任せるとして…。お前、仲間は?あそこにいた奴等以外にも居るんだろ?仲間の居る場所を言え。」
「仲間を売るような事はしない」
「なら、アジトの場所は俺を転送したあの場所と、小屋の下にあった地下空間だけか?」
「…そうだ。」
男は観念した様子で答える。
「他にアジトは無いんだな?」
「ない」
「(嘘はついてなさそうだな)分かった。今日のお前への尋問は終わりだ。ガレン、こいつを牢へ連れて行け」
「はいよ…。」
ガレンは男を椅子から立たせ、部屋から連れ出す。
それに続いて、イアンも部屋から出ようとした時。
彼は突然目眩に襲われてふらつき、咄嗟に壁に手をつく。
イアンの顔色は尋問前に比べると、やや青白く調子が悪いのは傍目から見ても明らかだった。
そんなイアンにガレンが声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ…、問題ない」
「いや、あるだろ。顔色悪いぜ?
ったく、回復しきってないのに、無理すっから」
「…うるさい。いいから、お前は早くそいつを牢へ連れてけ」
「はいはい。一応医務室行っとけよ。」
ガレンは、そう言い残すと一足先に尋問室を後にし、イアンは、暫くそのまま目眩が落ち着くのを待ってから部屋を出ていった。
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