Ⅱ.チャットAI

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Ⅱ.チャットAI

 かくいう我が社も、その潮流に乗らんとして流行りの「チャットAI」の開発に乗り出している。中堅どころの企業としては、ここで一発名を売れば一気に全国区、いや世界への扉が開くと考えたのだろう。  しかし今、俺に届いた1通のメールが、その野望が高望みであったことを如実に感じさせてくる。 『浜岡、ヘルプ依頼が来ている』  直属の上司である今井部長直々の連絡だった。  俺は技術営業部といって、自社の技術を用いた製品や、時にはその技術自体をお客様に売り込む仕事をしている。だが、今依頼されているヘルプとやらは、その技術を生むはずの開発部から来ている案件だった。  内容を要約すると、開発部が作っているチャットAIを試作品として社内にリリースする日が明日である。しかし開発が停滞しており、とても試作版として公開出来る内容ではない。だから社内での試作テストの期間に、俺に開発中のチャットAI『マホロバ』の代わりをしてほしい。社内からAI向けに飛んでくる質問を、1日でいいからさばいてほしい。そう書いてあった。 「……いや、アホかよ」  思わずそう漏らした。なぜ俺なのか、その理由も書いてあった。 『浜岡の顧客満足度の成績、そして特技としてのタイピングの速さを見込まれての依頼だ』  まあ確かに、タイピングには自信がある。そして口八丁手八丁だって、営業をやっていれば身につくものでもある。  だからと言って、ある種「全知全能」的なことを期待されがちなチャットAIに成り代わって俺が質問に全レスするって……無理じゃないか?
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