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Ⅳ.AIはつらいよ
その後もAIを試そうとするような質問が多く飛んできた。
自分でネットで調べろよと思うような内容が大半で、俺はブラウザを構えてすぐにWiki先生の教えを請うて、それを横流ししてやった。
しかし次第に、社員に関するような「社内ネタ」の質問も来るようになる。例えば「◯◯部長が不祥事起こしたって本当?」とか「◯◯と△△って付き合ってるの?」とか。
社内向けテストということで、どんな方法どのような部署にAIチャットの試用を通知したのか知らないが、このAIが社内の知識を持っていると思っている人間が一定数いるらしい。
俺はバツの悪い質問に対しては機械らしく無機質に「わかりません」的にさばいていった。
――しかし、この質問には手が止まった。
『技術営業の浜岡さんって、結婚してますか?』
「していません。データによると独身です」
俺は気付くと堂々と個人情報を売っていた。まあ自分のだが。
『浜岡さんって、恋人はいますか?』
「いません。本人のSNSから辿ると募集中だそうです」
マホロバが俺に詳しすぎる。だがこの女子社員と見られる質問者を個人的に逃す手はなかった。
『浜岡さんに好意を伝えるにはどうすればいいですか?』
「データによると、彼は奥手で鈍感なので、直接的に誘った方が良いのではないでしょうか」
……ふう。
AIやってていいこともある。明日からは身なりに気をつけよう。
――しかし数十分後、真逆のチャットが届いた。
『技術営業の浜岡は客先と黒い取引をしている。これ学習しとけ』
「事実でない内容は、知識として蓄積できません」
ふざけんな、誰だこれは。
俺の営業成績をやっかむ誰かの仕業だな。
『いや覚えろ。浜岡は不正をしている』
「浜岡が不正をしている事実はありません。あなたのIPアドレスを不正情報源アカウントとして情報システム部に通報しました」
……ふう。ご苦労、架空の情シ部。
AIやってていいこともある。だけど明日から背後には気をつけよう。
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