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7. 運命の巻き寿司
「彼はルーカスといってね。目の前で両親を銃殺されて口がきけなくなった。私は彼にノートを渡して、何でもいいから好きに書いて出せと言った。しばらくは落書きのような絵ばかりだったが、段々と字を書いてくれるようになってね」
野球が好きな彼は住んでいる叔母の家で観た試合のこと、大好きなマリナーズの日本人外野手であるイチロー選手のことなどを書いた。
『僕もイチローのような凄い選手になりたい』
父はある日、マリナーズの試合を観に行こうと、ルーカスと野球が好きな数人の生徒に提案した。
当日父はマリナーズの本拠地であるセーフコ・フィールドの売店にあった『イチロール』という巻き寿司を人数分買い、生徒たちと共に観客席に向かった。
イチローの三塁への忍者のような盗塁や、ライトからホームへのレーザービームの如き送球を観て、ルーカスは目を輝かせていた。
その日イチローはヒットを二本打ったが、マリナーズは負けた。
最後にルーカスは、試合に夢中で口をつけていなかった寿司に手をつけた。スパイシーツナが入っているその寿司を一口口に含んだ瞬間、ルーカスは顔を真っ赤にして叫んだ。
「辛い!!」
5年ぶりに口をきいた彼が発した言葉がそれだった。
父は嬉しさの余り泣きながら彼を抱きしめた。周りの子どもたちも続いた。まるでマリナーズが勝ったかのように喜ぶ彼らを、他の観客たちは怪訝な顔で見ていた。
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