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15. 未来
14年後ーー。
待ち合わせより5分遅れてやってきたイーディスは、テラス席に座る私の向かいに腰掛けた。
「お祖父ちゃんたち、少し遅れるらしいわ」と言うと彼女は、「じゃあ今のうちに決めちゃお」とメニューを開く。
20歳の彼女は現在大学で、ソーシャルワーカーになるための勉強をしている。良い友人たちに囲まれ、充実した日々を送っているようだ。
今日は午前中に講義が終わる予定だったので、お昼にカフェで待ち合わせをした。
他愛無い話の途中、話題は例の絵本のことになった。
「ぼくが仔犬を貰わなかった理由、今なら分かるの」
イーディスは言った。当時、授業でその理由を生徒に問いかけたが誰も分からなかった。
「気持ちの整理がついていないのもそうだけど‥‥‥。きっと、また失ってしまうのが怖かったんだわ。愛する存在を」
「正解はないけど、あなたの答えはA+ね」
「Sでもよくない?」
間も無く父と母がやってきて、4人でテーブルを囲んだ。
私の父の過去の自慢話に彼女はいつものように目を細めて相槌を打っていたが、不意に「そうだ!」と思い出したように言った。
彼女はバッグから黄色のリボンがかけられた赤い包装紙に包まれた箱を取り出して、私に差し出した。中には桜模様の白いタンブラーが入っていた。
「ハッピーマザーズデイ!」
娘は笑顔で両手を広げ、戯けてみせた。
END
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