プロローグ

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 作業着を着て、寝ぐせ直しもせずに歯を磨き、朝ごはんも食べずに家を出る。  車で四十分もかかる職場で一日仕事をし、残業もほとんどすることなく帰路につく。その途中コンビニに立ち寄り、酎ハイを五本買う。毎日五本ずつ買う。その日のうちに三~四本飲み、余った分を土日に回す。週末家を出るのも面倒なため、アルコールは買い溜めだ。  飯はどうしてるかって?  三十五歳未婚、童貞。俺は今も尚、親と一緒に暮らしている。飯は母親が準備してくれる。買いに行く必要がないのだ。 「タケ? また昼間っからお酒飲んでるの?」  休みなんだから、昼間からお酒を飲んでも問題ないだろう。 「んぅ……じゃあパチンコにでも行くかな」  真面目そうな顔してコレなんだから、と母はため息を吐いてボヤいた。  真面目そうな顔して、俺はこんなだ。子供の頃から大体こんな感じだ。真面目な顔をしているからと言って成績が優秀なわけでも、運動神経がいいわけでもない。なんなら、一通りの「悪いこと」はしてきているだろう。真面目な顔して、だ。  万引きをしたことも、未成年なのにたばこを吸うことも、酒を飲むことも、無免許で原付を乗りまわすこともした。成人してからはギャンブルにだって手を出したし、借金もした。浴びるように酒を飲む日もあったし、酔っぱらいながら運転しようとして、父親に殴られたこともあった。  だけど、別に、かといって、人の道を逸れて育ったわけじゃないし、今は借金も返済した。酒気帯び運転に関しても、一応まだ一度もしてないし、ギャンブルだって今はパチンコくらいだ。  ふつう。  俺はそこそこ「普通」にここまできた。  ただ、この人生で一度も彼女を作ったことがない。  ちなみに、これだけ色々やってきたが、俺は女に一度も興味を抱いたことがなく、女性に興奮したこともない。そこそこ色々やってきた俺は、もちろんエロビだって腐るほど見た。そういうお店でそういうことをしてもらったこともある。  だけど、よく分からなかった。  美人なお姉ちゃんに色々サービスしてもらったけど、女の裸体を見て自然と体が反応するということはなかった。物理的な刺激でしか立たなかったのだ。  だったらわざわざ高いお金を出して女を買わずとも、安いビデオを見ながら自分で扱く方がましかと思った。かといって、別にそのビデオを見て興奮しているのかと言われたら、いまいちよく分からなかった。 「そういえばタケ。あなたこの前の会社の健康診断。結果はどうだったの? 今週末には診断結果持って帰ってくるって言ってたでしょ?」  掃除機をかけながらそう言った母に、そういえば封筒を持って帰ってきていたと思い出した。
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