成 熟

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 才川君はたびたび病院へ通っていた。俺にわざわざ病院へ行くという報告こそしなかったが、何となくそうだろうと勘付いていた。  成熟が遅いことを、少しばかり気にしていたのかもしれない。俺と出会うまでは成熟が遅いことを喜んでいたようだが、俺との生活を続けていく上で、それは才川君に少しの焦りを与えたようだ。  だけど、俺は焦ってなんかなかった。成熟せずとも、ヒートが来ずとも、俺は才川君が愛しくて仕方なかったし、性欲を掻き立てられるのでさえ、彼だけだったから。  正直な話をすると、俺は毎晩だって彼を抱きたいと思っている。パソコンと睨めっこなどせず、俺の膝に座りに来いよと、何度も思った。我慢できなくてちょっかいを出す日もあった。  それでも、才川君の才能は、立花さん同様俺も本物だと思っていて、決して摘んではいけないものだと分かってもいる。  それでも我慢できない日は俺にもある。今日は特に、我慢ができない。才川君がパソコンと睨めっこしながら、爪を噛んだり、首をひねったり、頬杖をつきながらその指先でトントンとほっぺを叩いたり……。  全然(はかど)っていない。見なくても分かる。タイピングの音がずっと止まったままだ。  だったら休憩して、俺と少しお喋りしてくれないかなって、子供みたいなことを思ってしまって……。そしたらもう、我慢ができなくなった。 「ルイ……」  そっと後ろから才川君を抱きしめ、キスをしようと顔を覗き込んだんだけど、「ごめん、ちょっと待ってタケさん」とそれは拒否された。  大事な時に邪魔したようだ。  ごめんって俺も謝って、静かに隣に腰を下ろす。キスしたいとか、エッチしたいとか、手を繋ぎたいとか抱きしめたいとか、こっち向いてほしいとか……、いいおっさんが気持ち悪いと思う。でも才川君の前じゃ、それが我慢できなくなる時がある。情けないけど、これが ”(さが)” なんだろう。  カタ……カタと少しだけ文字を打ちこむ音。でもそれをタタタと消し去ってしまう音。その繰り返し。   俺は席を立ちコーヒーを二つ入れ、ひとつを才川君に差し出した。 「ありがとう」  そう言って微笑み一口飲むと、またカタカタと文字を打ち込んだ。 「ルイ」 「ん?」 「エッチがしたい」  はっきり言うと、才川くんはぶはっと吹き出し、パソコン画面から俺へとその可愛い顔を向けてくれた。それだけで嬉しいんだから、どうしようもない。 「タケさん、エッチしたいの?」 「したい。ムラムラしてる」 「うは! なんで⁉ いつ⁉ いつから? 俺なんかした?」  そう言って、どこか嬉しそうな顔をする。 「何もしてないけど……」  こちらが恥ずかしくて顔を背けると、才川君は「タケさん面白いなぁ!」って大笑いして、そして嬉しそうに微笑みながらほんの少し頬を染め、「エッチしたいの?」ともう一度確認するように聞いてきた。 「……したい」  素直に頷くと、やっぱり才川君は嬉しそうにテレ笑いして、「仕方ない人だな」ってパソコンを閉じた。 「タケさん……ほんとエッチなんだから」  そう言って俺の膝の上に座り、キスをくれた。
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