プロローグ

3/3
前へ
/30ページ
次へ
「あぁ、よく覚えてたな。俺もまだ見てないや」 「能天気なもんね。あんたももう若くないんだから、健康にもっと気を使いなさい」  はいはい、と適当に返事しながら仕事用の鞄から茶封筒を取り出して母に渡す。 「何? 私から見るの?」 「うん。で、どうだったか教えて」  酎ハイを喉に流し込んで、俺は再びソファに腰を下ろす。  ずぼらなもんだね、と文句を言われるのを背中で受け止めながら、テーブルの上にある新聞を手に取った。数か月前に海外で起こった大規模地震がここ最近またニュースに取り上げられ、地殻変動がどうだとか、磁場がどうだとか、なんだか難しい話を専門家たちが眉間に皺を寄せながら話している。  まったく興味はないが、新聞の見出しにこう書かれていたから、思わず手に取った。  磁場の影響で、性別が変わる  何を言っているんだと思った。そんな馬鹿なことあるわけないと。  だけど、この世界には三つの性別が存在し、それは男女関係なく「アルファ」と「ベータ」と「オメガ」の三種類に分けられていた。  性別が確定されるのは思春期の頃で、個人差はあるが、大体成人するまでにはそれが確定されると言われている。  だが、今まで突然変異で確定後に性別が変わったという事例は世界各国で発見されており、その原因は学者によりそれぞれ言い分が違うようだった。つまりはまぁ、よくわかっていなかったわけだ。  それが今。先の大規模地震の磁場乱れにより、突然変異の人間が急増しているというのだ。  これは少し興味深い。どこまで本当かは分からないけど、遠くの国ではどうやら大混乱を招いているみたいだ。ただでさえ被災してそれどころじゃないっていうのに。 「はは……」  思わず渇いた笑いを漏らした俺だったが、背後で母が「は?」と疑問符満載の声を発するものだから、俺は新聞を見て笑うことすら「真面目な顔して」と咎められるのかと振り返った。  だけど、そうじゃなかった。  文字が小さくてまったく読めない診断書をこちらに見せた母は、愕然とした様子で言った。 「あんた……、アルファ……だって」  生まれてこの方、誰がどう見てもベータだった俺。だが大規模地震の磁場乱れは、遠く離れた俺にも性別の変化をもたらした。  俺が……、アルファだって……?
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加