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竜と絆と新たな家族
アジャタ村に疫病が蔓延した時、僕と僕の家族が疑われるのはある意味必然であったことだろう。
何故なら僕達は去年この村に引っ越してきたばかりの余所者。お父さんが近くの工場で働いていることもあって、頗る評判が良くなかったのである。僕達自身が、村の人達に何かをしたわけではないというのに。
「お前達が、この村に災いを齎したんじゃろう!」
村長さんは率先して村の人を率いて、僕達の小さな家に押しかけてきた。
村で蔓延している疫病。それは、人の肌に突然の紫色の斑点ができて、体が徐々に動かなくなってしまうという難病だった。何年どころか何百年もの間、他の町や村との交流を絶って生きてきた小さな家村である。ただ一人しかいない老いた医者は、こんな症状見たことがないと匙を投げていた。
確かに、お父さんの仕事の都合で(この村の近くに工場を作ることになり、お父さんがそこに転勤になったのだ)僕達が引っ越してきてから、村に良くないことが続いたのは事実。
工場の汚染水がどうの、大気汚染がどうのということで村と企業でかなり揉めていたことを僕は知っている。会社側は“自然を汚さない最大限の配慮をする”と約束したのだが、頑固な村の人達はいくら企業が数字を示しても信じてくれなかったというのだ。
それに加えて、工場ができ、僕達が引っ越してきてから疫病が始まったのも確かなこと。彼らが僕等一家を、村に災いを齎す悪魔として排斥したくなるのもわからないことではない。
「私達は何もしていません!工場の汚染物質で、あのような症状が出ることはないと科学的にも証明されています!」
お父さんは必死で村の人達に説明した。
「そして、同じく村で過ごしている私達一家は無事なんです。疫病は、この村の元々の風土病であった可能性が高いと……」
「ええいやかましい!やかましいわ!」
「言い訳がましいぞ、貴様!」
「素直に罪を認めたらどうなんだ、ええ!?」
村長も、村の老人達もまったくお父さんの話を聞い入れてくれない。僕は呆れ果ててしまった。まだ十二歳の子供である僕だけれど、それでも村の人達がどれほど馬鹿なことを言っているのかは想像がつく。
彼らは僕達一家が悪いことにして、責任をすべて押し付けたいのだ。そして安心したいのだ。僕たちをどうにかしてしまえば、恐ろしい病から開放されるはずなのだ、と。
なんという、臆病者の集団か。わかっていても僕は何も出来ない。お父さんの後で、お母さんと妹を庇って立つ以外には、何も。
「お前達には、この災いを鎮める義務がある!それが出来たら、我々もお前たちを許してやろう!」
村長さんはいかにも偉そうに僕達に言い放った。そして、ある条件を突きつけてきたのだ。
即ち、山奥の祠にある――万能の妙薬を取ってこい、と。
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