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馬鹿につける薬はない、なんて言うけれど、なんと今般、馬鹿が治るという夢の薬が開発された。
開発者は江地柔人博士。僕が助手として働くこの研究所で所長を務める人物だ。
「ワトソンくん、今日の予定は?」
「和頭です。えっと、朝から三件続けて馬鹿治療希望者との面会です」
「希望者の年齢は?」
「全員、小学校低学年生のようですね」
「よろしい。ではいつも通り準備を進めてくれたまえ」
博士の指示に従い薬の調合を開始する。
今回開発されたこの馬鹿に効く薬、仮称「カシコナールA」はまだ医薬品として承認はおろか、臨床試験すらなされていない。というか、一般販売を目指して届出する予定がそもそもない。
なので堂々とこの薬を使った治療を行うわけにはいかず、それゆえ、研究所ホームページ一番下のリンクから別ページのリンクへと、それはもう馬鹿じゃないの?ってくらい何度も跳び続けた果ての最終ページにて内緒で治療希望者の募集を行なっている。
しかしそんなひっそりとした募集にも関わらず、日本人の「馬鹿に対するコンプレックス」というのはなかなかに凄まじいものがあるようで、毎日何人かは見事その募集ページまで辿り着き、治療予約はすでに半年先までびっしりと埋まっている。
そしてそのほとんどは我が子の学力を憂う親からの応募だ。
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