馬鹿につけるくすり

10/11
前へ
/11ページ
次へ
✳︎✳︎✳︎  本日分の面会を全て終えると博士は、すぐに次なる研究に取り掛かる、なんてことはなく、宿題を終えた子供のように嬉々として持ち運び用のゲーム機で遊び始めた。  僕はその隣できびきびと片付けを進める。余った資料をファイルに挟み、机を拭き、予備で作っておいた薬は……ちょうど喉が渇いていたので、全部まとめて飲み干した。  当然、何の味もせず、薬はただ単純に僕の喉を潤しただけだ。  ゲーム機の画面に夢中な博士の横顔に、僕は溜息を吐きながら話しかける。 「性悪な商売、っていうのは事実ですよね。着色しただけのを売って、善良な患者から大金を巻き上げているんですから」  僕の皮肉に、博士はゆっくりとゲーム機から顔を上げた。 「なに、私は別に嘘は言っていないさ」 「え?」 「『馬鹿が治る薬』なんて都合の良い話に踊らされるような馬鹿親どもには、実際のところちょうど良い薬だろう?」  博士は悪びれるどころか、むしろ良いことをしてやったと言わんばかりに胸を張る。あまりの図々しさに僕は肩をすくめた。 「はぁ……本当に性悪だ。いつか『やっぱりうちの子は馬鹿じゃないか! 騙したな!』なんて訴えられても知りませんからね」 「いや、その心配はないよ」  なぜか確信に満ちた口調の博士。純粋に気になり、僕は「なぜです?」と尋ねてみた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加