馬鹿につけるくすり

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「ふんふん……なるほど……」  薬の効能・メカニズム解説に真剣な表情で頷く正木さん。対して卓馬くんは、この上なく退屈そうに資料を折り紙にして遊んでいる。  しかしとうとう限界がきたのか、 「ねぇまだー? 早くかえってゲームやりたいー」 と如何にもこの年頃の子供らしくごね始めた。 「もう、あなたのためにやってるのにそんなこと言わないの。あなたがお勉強のできないお馬鹿さんだから、藁にもすがる思いで、大枚をはたく覚悟で、お母さん頑張ってるのよ?」 「わら? たいまい?」 「普通の日本語よ? ちゃんとお勉強しないからこんな言葉も分からないのよ」  正木さんに責められ、卓馬くんは拗ねたように口を尖らせる。 「はいはい、どーせバカですよー」 「この手続きが終わって治療したら、すぐにお馬鹿さんを卒業できるわ。だから終わるまで大人しく待ってなさい」 「べつにいいもん。バカのままで」 「何言ってるの? お馬鹿なままでいたら、将来苦労するのはあなたなのよ? お母さんさんはあなたのためを思って」 「ウソつき。ほんとはぼくがバカだと自分がはずかしいだけのクセに」 「そんなことっ……!」  ぬるっと始まったわりと重めな親子喧嘩を他人の僕はただ黙って見守ることしかできない。毎度よくあることだが、あまり微笑ましい光景ではないなと思う。  いい加減居た堪れなさに耐えきれなくなった頃、見計らったように部屋のドアがガチャリと開いた。
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