馬鹿につけるくすり

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「やあやあ、お待たせしました。……お取り込み中でしたかな?」 「あら、ごめんあそばせ。もしかしてあなたが?」 「所長の江地です」 「まぁやっぱり! お会いできて光栄ですわ! このたびはうちの馬鹿息子のために貴重なお時間を、あ、いえ、その前に素晴らしい発明をしていただき……」  取り繕うように丁寧な挨拶を始めた正木さん。その目はまるで、イケメンを前にした少女のようにキラキラと輝いている  相手は小太りの中年男性なのにな。 「ワトソンくん、同意書の方は?」 「和頭です。すでにサインいただきました」 「よろしい。では早速、薬の準備を」 「どうぞよろしくお願いします。ほら、あなたも!」 「お、おねがいします」  さっきまで馬鹿のままでいいなんて言っていた手前言いづらそうではあるが、卓馬くんの表情からも幾ばくかの期待感が見て取れる。  やっぱり薬を投与するだけで頭が良くなるなんて言われたら、誰だって嬉しいのかもしれない。
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