馬鹿につけるくすり

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 博士の命に従い別室からカシコナールAを持ってくると、卓馬くんは「げぇ」とあからさまに顔を顰めた。 「超まずそー」 「ははは。確かに、少しだけ苦いお薬かもしれないな。でも身体に悪いものは何も入ってないからね」  博士はニコニコしながらそう言うが、いかにもな試験管に入った青紫色の液体を見せられたら躊躇するのも無理はないだろう。 「あの、本当に大丈夫なんですか? あ、いえ! 決して疑っているわけではないんですが……」  あんなに治療に前のめりだった正木さんでさえ、薬のあまりの禍々しさに戸惑いを隠せない。 「絶っ対に大丈夫ですから、ご安心を。それに万が一にでも体調に異変があれば、同意書に記載の通り、我々が責任を持って対処しますから」  博士の自信に満ちた口調に安堵した様子の卓馬くんは、僕の手から試験管を受け取るとえいっと勢い良く口を付けた。  正木さんが固唾を飲んで見守る中、彼は一気飲みし空になった試験管を僕に渡した後、不思議そうに首を捻った。 「ぜんぜん苦くないよ? なにも味しない」 「なんだって?」  今度は博士が首を捻り、「ちゃんと調合したのか?」と目線で僕に尋ねた。僕は慌てて「ちゃんといつも通り調合しましたよ」と答える。  「うーん、だとしたら……いや、でも……」博士が唸る。 「あの、何か問題が?」  不安そうに聞く正木さんに、博士は疑わしげな視線を投げかける。 「つかぬことをお伺いしますが……おたくの息子さん、本当に馬鹿なのですか?」
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