馬鹿につけるくすり

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 あらぬ疑いをかけられ、正木さんは心外だと言った様子で答える。 「馬鹿も馬鹿、大馬鹿ですわ! テストはいつもクラスでドベですし、それなのに毎日お勉強もせずゲームばっかり! これを馬鹿と言わずに何と言うと?」 「そこまで言わなくてもいーじゃん……」 「そうですか。しかし、カシコナールAは馬鹿であればあるほど強い苦味を感じる薬。それが全く苦くないとなると……」 「わたくしが嘘をついているとでも!?」  正木さんがヒステリックに叫んだ。 「効いてないのだとしたら、そちらの薬がインチキなのでしょう!? 卓馬は間違いなくお馬鹿さんです! じゃなきゃ、あんなに必死になって治す方法を探して、今こうしてここに居ませんわ!  大金を払わせておきながら自分のインチキを人のせいにしようだなんてあなた方、とんだ性悪な商売ですわね! あぁ、さっきデタラメな薬の説明を聞いた時、気付くべきだったわ!」  怒りが収まらない様子の正木さんに、卓馬くんはオロオロと気遣わしげに手を伸ばしては、引っ込めてを繰り返している。もしかしたらこの嫌な空気を自分のせいみたいに感じてしまっているのかもしれない。 「デタラメな薬の説明?」正木さんの発言に、博士は目を鋭くする。 「そうだお母さん。あなた、助手から薬についての説明を聞いたはずですよね?」 「聞かされましたわ! 胡散臭い説明をね!」 「胡散臭い? ははぁ、それは妙ですね」 「はぁ? 何を、またわたくしのせいにするんですか!」 「今、言ってしまっていいんですか?」  博士がちらりと卓馬くんの方を見た。その仕草に正木さんは怪訝そうにしながらも、続きを促す。
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