馬鹿につけるくすり

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「もう一度だけ確認しますよ? お母さんは薬の効能と馬鹿が治るメカニズムを聞いた上で、胡散臭い説明だと、そう仰るんですね?」 「しつこいわね、そう言ってるじゃない! あの、なんて言ったかしら?」 「薬に含まれる『ヘンサチウム』という成分が脳の『パッパラパー神経』に作用、『チテキン』の分泌を促進した結果、『マジテンサイ反応』が起こって脳細胞が活性化する」 「そうそう、何よそれ、改めて聞いたら馬鹿みたいじゃない。成分も反応も何も聞いたことないし、そんなデタラメで騙そうったって……」 「本当に? 聞いたことない? これ、中学の理科でも勉強する非常に有名な現象ですが」 「え」  正木さんの口から虚を突かれたような間抜けな声が漏れた。そして「そんな、冗談でしょ?」と僕に助けを求める。 「いえ、僕は習いましたよ。マジテンサイ反応ですよね? 教科書の一番最初のページにデカデカと載ってますよ、大体」 「え、嘘……」  思わぬ援護射撃でいよいよ逃げ場を失った彼女は、目を瞑りながらブツブツと何か呟き必死に記憶の糸を手繰ったのち、やはりそんな記憶はどこにも見当たらなかったのか、「マジテンサイハンノウ……?」とうわごとのように言った。 「私の薬はまともに勉強したことがある人なら『誰でも知ってる』『常識』を利用したものなんですよ。  『当たり前過ぎて逆に盲点だった』と各所で絶賛していただいたんですがねぇ……はぁ、ご存じない?」  失笑しながらトドメのように繰り出された博士の言葉に、正木さんは顔を真っ赤にし、ダラダラと滝のような汗を流していた。  そしてそんな彼女を冷ややかな目で見つめる卓馬くん。  そりゃそうだろう。馬鹿だの勉強しろだの言っていたお母さん自身が、勉強していれば誰でも知っているらしいことを知らないというのだから。
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