馬鹿につけるくすり

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 やがてその視線に耐えかねたのか、正木さんは急に「あー!」と大きな声を上げた。 「お、思い出しましたわ! マジテンサイ反応ね、はいはい! 確かに昔習ったわ、うん!」 「そうですよねぇ? マジテンサイ反応を知らないなんて普通あり得ないですもん!」 「いやーほんと、うっかりしていたわ! 当たり前のこと過ぎて逆に忘れちゃってたみたい! 灯台下暗しとはこのことね!」 「……お母さん、ほんとうに?」 「ほんとよほんと! あなたも中学生になったら最初に習うから、覚えておきなさい。マジテンサイ反応!」  卓馬くんはしばらくジト目を続けていたが、やがて飽きたのか「まぁいいや」と言って資料の折り紙遊びに戻っていった。  おほほーと笑って誤魔化す正木さんに博士は「思い出されたということは、もちろん薬の妥当性も理解していただけましたよね?」と念を押す。  卓馬くんの手前今更引くことなどできない彼女は「そ、そうね。息子が馬鹿じゃないことが分かって安心したわぁ」と、言葉とは裏腹に唇を噛んでいた。
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