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「元旦那と比べてどっちがいい?」
「あなたに決まってる。それ聞くの何回目? いちいち言わせないで!」
「言わせたいから何回でも聞くんだ」
「離婚前からそんな質問ばかりしてたよね。なんで?」
「そりゃ征服感が得られるからに決まってるだろ。夫や恋人のいる女を寝取る以上の楽しみなんてねえよ」
「悪い男」
「悪い男と知っててもう20年おれとこんな関係続けてるおまえはどうなんだ?」
「だって元旦那との行為じゃ物足りなくて……」
「エルフの男はすぐスキルに頼るから、モヤシみたいにひ弱な男ばかりだもんな。おまえばかりじゃない。エルフの女はおれたち人間の男から見れば、釣り堀の魚みたいなもんだ。簡単に釣れると分かってて釣り堀に行かない馬鹿はいないわな」
「馬鹿にしないで! って言いたいけど、体が勝手にあなたとの行為を求めてしまうの。ごはんは食べなくても死なないけど、あなたとの行為なしじゃ生きていけないの!」
「普通、逆じゃねえか?」
「知らない! ああ、またイッちゃう!」
「ハッハッハ。チョロい女だぜ」
ここで音声は途切れた。僕の意思でスキルを止めたわけでなく、僕の拙いスキルではこれ以上長時間の再生は無理だった。
またどこかの愚かなエルフの女が悪い人間に快楽の虜にされていると呆れて聞いていた。キンバリーが浮気していると母さんに教えて別れさせようとほくそ笑んだが、音声を聞いているうちにキンバリーと行為中の女が僕の母さんだと気づいて、僕の頭の中は真っ白になった。
そして、それは父さんも同じで、聞き始めたときは青い顔をしていたが、聞き終わる頃は真っ赤になっていた。相当怒っているようだ。
そのとき僕はまだ怒りより困惑の方がずっと強かった。母さんとキンバリーの関係は20年前から? 20年前といえば母さんはまだ15歳。父さんと結婚した年から3年も前だ。つまり母さんは父さんと結婚しているあいだ、ずっと父さんを裏切ってキンバリーと不倫していたということ?
あの優しい母さんが不倫なんて……。母さんとキンバリーの関係が去年父さんと離婚したあとに始まったものだと決めつけていたこともあって、僕は今耳にしたすべてが間違いであると思いたかった。僕のスキルが未熟なせいで、ありえない音声が石から流れてしまった。つまりすべては僕のせいだ――
父さんにそう伝えようと思ったが、僕が口を開くより先に父さんに機先を制されてしまった。
「ライは何も悪くない。悪いのはあの男だ。ライの将来に悪影響が及ばないように、僕があの男に釘を刺してあげるよ」
「お願いします」
そのとき僕は父さんの申し出を断るべきだった。軽い気持ちでそう答えてしまったために、取り返しのつかない事態になってしまった。
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