プロローグ

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 見覚えがある白い部屋。イズミの家の彼女の部屋のようだ。ベッドに並んで腰掛けるイズミとキンバリー。二人とも全裸で、どこも隠そうとしていない。ベッドにはイズミのものと思われる白い下着も脱ぎ散らかしてあった。初めて見るイズミの胸の膨らみはとても美しかった。  でも僕の視線はイズミの手元と口元に集中した。イズミはおいしそうにタバコを吸っていた。酒瓶らしきものもそばに見える。エルフの国では酒もタバコもご法度。エルフの法を破ったことが知られたら、イズミは学校を退学になるのはもちろん、刑務所に収監されることになる。  「おまえ、過去の映像を映し出せるのか?」  「僕を見くびるなと言っただろう? それにこんなのはたいしたスキルでもない」  僕の実力では現在の情景を紙に念写して写し出すのがやっとだ。やはり父さんは偉大なスキルの使い手だった。父さんの血を引く僕もいつか父さんの境地に近づけるはずだと心から信じた。  イズミは吸ったタバコを灰皿に押しつけると、今度は酒瓶から赤い色のお酒をグラスについで一気に飲み干した。  「私、ずっとだまされてた。お肉もタバコもお酒もセックスも、大人がダメだというものは全部素敵なものじゃない? それを知らなかった今まで、私はどれだけ人生損していたんだろう?」  「大人の言うことを信じるな。大人が子どもにそれを禁止するのは楽しいことを独占したいからだ。エルフばかりじゃない。人間の親だって似たようなものさ」  「キンバリーさんは大人なのに違うんだね」  「おれはいつだってイズミの味方さ」  「うれしい!」  「チョロすぎるな」  「なんか言った?」  「なんでもない。一休みしたし、またセックスするか?」  「うん! もっともっと気持ちよくして!」  と言うより早くキンバリーの太い両腕が伸びて、一瞬のためらいもなくイズミの胸を鷲づかみにした――  声は天真爛漫だったが、話の内容は一寸の隙もないほど汚れきっていた。イズミは大人にだまされていたと憤っていたが、イズミにだまされていた僕はどこに怒りをぶつければいいのだろう?  でも信じられない。あんなに清楚だったイズミがほかの男と、しかも人間なんかと浮気しているなんて!  キンバリーは僕の母さんとも交際している。そのことはもちろんイズミは知らないだろう。知れば僕への申し訳なさでイズミの心は壊れてしまうかもしれない。イズミはさっき知らなくて人生損したと言っていたが、知らない方が幸せなこともあるのだ。
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