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長い長いトンネルを抜けると、そこは深い山の中だった。せせらぎの音がしてそっちに行ってみると、僕らは断崖絶壁の上に立っていた。見下ろすと、はるか下を流れの速い川が流れていて、渓流の両岸は断崖絶壁。
僕には見覚えない場所だけど、父さんにはあるらしい。
「こんな場所に出てしまったのか」
「父さん、ここはどこ?」
聞かれて困る人間はいないし、いちいち雷と呼ばなくても問題ないだろう。
「ここは僕たちがもともといた世界のエルフの国と人間の国の境目さ」
「本当に元の世界に戻ってこれたんだね。それにしても、人間がこんなに険しい場所を越えてエルフの国にやってきていたなんて知らなかったよ」
「ほしいだけ金と女が手に入るんだ。ちっとも苦にならないだろうさ」
ここを通る人間を阻止すればエルフの国は平和だろうなと思ったら、前方から何者かが徒歩で近づいて気配を感じた。人数も多そうだ。
「隠れる?」
「隠れる? なぜ? どうせここを通るのは人間だけだ。ここで引き返してもらえばいいだけさ」
「嫌だと言ったら?」
「やつらに拒否権なんてないさ」
などと会話しているうちに、目の前に人間たち一行が姿を現した。男ばかりで人数はざっと20人ほど。うち3人は馬に乗っている。大きな台車を引いているが、密貿易の商品が積んであるのだろう。近づいてきて分かったが、なぜか柄の悪そうな男たちばかり。
転生後の世界と違って、転生前の世界の人間たちは車を持たなかった。ごく一部の裕福な者が馬を所有していたにすぎない。彼らがそれほど高度な文明をまだ築いていなかったからだ。
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