第5章 元の世界へ

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 その言葉を合図に、20人が一斉に僕らを取り囲む。でも生かしておくわけにいかないと思ったのは僕らも同じ。だって密入国第一号の彼らの密入国が失敗しみんな死んだと知れば、ヤクザたちはエルフの国に渡ってこようとはもう思わないはず。  僕はリミッター解除と、父さんはドラゴンとつぶやいた。  「何をぶつぶつ言ってやがる!」  男たちが殺到してきた。馬に乗った男が正面から僕に迫ったが、突然姿を消した。九号が走っている馬の真横から体当りしたのだ。走っている車に体当りして大破させることができたのだから、馬くらいならなんでもないだろう。  一方、父さんもドラゴンたちを操り、ならず者の群れを攻撃中。新生活を始めた半年のあいだに、父さんはドラゴンを増やし、今では10匹を数える。ドラゴンは火力で確実にヤクザたちを火だるまにしていった。戦闘可能な相手の人数が減ると、相手一人にドラゴン3匹が一斉に火を吐きかけるという惨状を呈している。  一人だけ無傷の少年がいる。それはその少年の腕力が強かったからでなく、エルフの国に潜入しようとしたヤクザたちの哀れな末路をヤクザの親分に知らせるための伝令役として誰か一人を生かしておく必要があったからだ。伝令役にその少年が選ばれたのは一番年が若そうだったから。おそらく十代、ヤクザとしても下っ端だろう。  ただどことなく面構えがあの男と似ている。もしや――  と思っているうちに生きているのはその少年だけになった。向こうもこっちを殺すつもりだったのだから、何人焼き殺そうがそのことに僕らが罪悪感を感じる必要はあるまい。  それに、仏心を出して殺すのを見逃せば、それを恩とも思わず機を見て躊躇なく僕らを殺そうとするやつらだ。そう。キンバリーのように。
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