2人が本棚に入れています
本棚に追加
十年前のタイムカプセル
数十分ほど田んぼ沿いの道を進むと、私達の卒業式の舞台へと辿り着いた。
「この景色……十年前と変わりませんね」
「そうだろう? まるで、ここでだけ時間が刻まれているみたいだ」
十年前、関の自宅の隣にある空き地には家庭菜園があったが、今は撤去されているようだった。この地に残されたのは、空き地の存在を主張するように設置された倉庫と白看板だけだった。
「そっか、菜園の邪魔にならないようにって、タイムカプセルは空きスペースに埋めたんだっけ」
「俺達が地面掘るけど、見学に飽きたら飛び入り参加大歓迎だからな」
「自分も精一杯頑張りますね」
予定通り、男子二人が大半の作業を担ってくれる様子。関と星流が倉庫でスコップや軍手を取り出すのを遠目に見つつ、私と和菜の女子組は地べたで体操座りをする。
「みっちゃん、せっかくの白のワンピースが汚れちゃうよ。大丈夫? あたしはズボンだから良いけど」
「多少は気にしない! にしても、みっちゃん呼び懐かしい。関がせっきーで、星流はスターだよね。ラストに溢れ出る異端さよ」
男子二人は看板のある半径一メートル辺りを掘り始める。私は、足元のシロツメクサをつん、と優しく揺らした。
「本人の前では大声で言えないけどさ、星が流れるで星流なんて格好良いじゃん。あだ名、八割は尊敬の念で付けたんだよ?」
「二割は和菜お得意の適当、と」
「あったりー」
そこで一旦会話が途切れて、私達は男子組の重労働を見学しながら、何もしないをする。どうやら、開始十分で地面にへたり込む星流を、関が励ましているようだ。
中学生の頃。関は星流の苦手な運動を教え、反対に星流は、関の苦手分野である勉強を手伝っていて、互いが互いを支え合う仲良しコンビだった。私と和菜で「立場が毎時間切り替わる、先生と生徒みたい」なんて会話もしたっけ。
「想い出って、意外とすぐに色褪せてしまいそうで、怖いな。そういえば和菜。今、何の仕事に就いているの?」
会話の種になるかなと思い、和菜に話を振ってみた。
「ファッションセンターの店員だよ。あたしの人生、至って普通なもんだけどね。んー、大事件といえば、結婚詐欺に遭ったくらい?」
最初のコメントを投稿しよう!