突然の告白

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「高校で? でも、どうして……」 「皆は解っているはずですよね。自分は……変な奴だって」  一滴の涙が星流の顔筋を伝って零れ落ちてゆくと、あっという間に穴の底に吸い込まれた。  先程も思っていた通り、星流は不思議な行動を取ることがしばしばあった。休み時間に黙々と蟻の観察をしていたり、学校の教室でずっとメダカの水槽を見つめているかと思えば、実は水草の方に注目していて『この子達(オオカナダモ)は、まるで地球人みたいですね』と、一見意味不明な発言をしてきたり……エトセトラ。  でも私は、星流を「個性が人一倍強いだけ」だと捉えている。教室の発言後、頭上にはてなマークを浮かべる和菜と関(近くで話を聞いていた)をスルーして、『地球人、ってどんな感じ?』と訊いてみたのだ。 『自分は、この水槽に星空が詰まっていると思うのです。メダカが自由奔放に泳ぎ回る姿は、あたかも流星群のようで。天体観測するのが、自分達人間でしょう。それがメダカと違って泳がず、ただ揺れ揺れて宇宙(そら)を見つめるオオカナダモにそっくりだな、と』  あのとき、水槽を星空と、メダカを流星と表現するの? そんな発想、私には真似出来ないなあ。と、何故か星流に敗北したような気分になった。 「けれど、メダカはオオカナダモの間を縫うように泳ぐことがあります。自分達と似ていませんか? 宇宙って、遠いようで身近な存在。意外と世界は、自分の人差し指で触れられる場所に位置しているのですよ」  私が星流に憧れの念を抱いていたとは、窓の奥にある景色を眺めていた彼自身、気にしてすらいなかったと思うけど。 「皆と仲良くやりたいと思って、クラスの自己紹介で自分をさらけ出したのですよ。長所も短所も。そうしたら、自分のことを気味悪がった女子生徒が、同意見を持ったクラスメイトを招集して、結成したのです」 「何をだ?」 「“五十嵐(いがらし)星流を正す会”」  「正す」は、生徒にとっての都合の良い題目なのだろう。その会で何が行われたかは、薄々察せる。 「自分はちょっと前まで仕事していたのですが、辞めました。まだ、見知らぬ人に恐怖を感じるのです。冷たい視線が、怖い」 「同感」  頷いたのは関だった。マスクに指先を掛けながら、微笑む。勢い良くマスクを外すと、それまで隠されていた右頬に青痣が現れた。
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